すぐ側にある魔法  


星の様に煌めく宝石や美しいアクセサリー、花弁が幾重に重なる様にふわふわ揺れるレースをあしらったドレスを見れば、女の子は心躍るだろう。

けれど、案外子供の頃に集めた、大人にしたら我楽多と思われるような物が…何よりも思い出に残り、どれよりも大切な宝物だったりする。

キラキラ光るビー玉、波や砂の摩擦で丸くなったガラス、お縁日やバザーで売っていた玩具のアクセサリーに髪飾り、綺麗な色の貝殻にピカピカに輝くドングリ。何処にでもある、日常の中にあるありふれた存在は、見る人によっては他愛も無い我楽多で…人によっては、何もにも代える事の出来ない大切な宝物。

それと同じように、美味しいと感じる食べ物も人によっては様々。有名パティスリーの高級なケーキが美味しいと感じる人もいれば、母や祖母…もしかしたら父親や姉や兄が自分の為に作ってくれた、少し部格好で…スポンジが硬かったり…クリームが甘すぎたりする…家庭の味のケーキが、どんな凄い洋菓子職人の作るケーキより美味しいと感じたり…とても大切な記憶として残ったりすることがある。

ただ美味しかったり…本物の宝石の煌めく輝きの美しさは、地味に色あせて記憶があいまいになって風化することが多い様に思う。

モノの素晴らしさも重要だけど、それに関わる記憶や想いがどれだけ込められているかが…心に響き…心に残るのかもしれない。

だから、きっと人から見れば他愛も無い事柄がすごく大切な思い出になる。

人の想い…贈る相手…食べる相手へ大切な想いをこめた物は、受け取る側の人間に何か残してゆくだろう。魔法使いでも無い…ごく普通の人間が、使える簡単そうで難しい不思議な魔法。魔法使いだって案外、この魔法は難しい魔法。

「女の子は誰でも素敵な魔法使いなんだよ」

そんな言葉を、あかりのパートナーであるルビーはジュエルランドに来たばかりで自信が無いあかりによく繰り返し言っていた。

女の子は素敵な魔法使いだから、大丈夫だと…いつか必ず魔法が上手くいくようになると…そう励ましていた。

割と何でもそつなくこなす事が出来た私にしてみると、初めは理解に苦しかった。

けれど、あかりに出会い…私という小さな箱庭以外の世界に触れて少し考えが変わった。

人にとっては我楽多でも…人にとっては不格好なお菓子や料理でも…贈る人間の事を心の底から思って渡された物は、知らない内に心がほんわか温まる。

それに完全に気付かせてくれたのは、エクセレント学院の高飛車なジュエルペットとのスイーツバトル。

相手はジュエルスーグランプリに出場を決めたパートナーを持つジュエルペットにそれに準ずるペット達。正直、実力を冷静に考えれば向こうが上を行くだろう。

そんな、相手の中でルビーが作ったのは…ごくごく平凡な型抜きクッキー。お菓子作りの初心者が初めて作る定番のお菓子。正直スイーツバトルで作るには、難易度が低く…見た目からして見劣りしてしまうもの。だれも、それで勝負に挑もうなどとは思わないだろう。

別に、型抜きクッキーが悪いとか…それで戦いを挑んではいけないと言うルールも無く規制も無い。

けれども、皆こぞって難易度の高いスイーツで勝負をするのだ。勝つために…少しでも相手より有利に立てるように。

しかしながら、純粋に技術だけを求めるならば…同じ課題で同じものを作らせた方がよっぽど分かりやすい結果が生まれるだろう。それは、同じ型抜きクッキーでもその人のちょっとした癖や手順で違いが生じるからだ。それこそが、純然たる技術を競う結果に繋がる。まぁ、単純な物が案外何よりも難しい事だと言う事は多くの者は見落としがちだ。

そして何よりも見落としがちなのは、込める思い。
あかりの為に作ったルビーのクッキーは、あかりにとってどんな素晴らしいスイーツよりも大切で美味しいものに違いない。

涙を笑顔にしたり…悲しい気分を浮上させたりする想いの魔法。

魔法薬の研究が得意な私には、少しばかり難しい魔法。

そんな事を、あかりに言ったなら…。

「そんな事無いよ。私沙羅が作ってくれるもの好きだし…楽しいよ」

キラキラと輝く温かい笑顔でそう返してくれるに違いない。

そう思うと、例えお菓子作りや魔法が少し苦手でも…あかりは普通にジュエルスターグランプリで頑張る事ができると思う。

願わくば、私もあかり達と共にジュエルスターグランプリで頑張れる事を切に願う。
誰でも魔法使いと言う言葉を胸に…。


おわし


2010.12.15.(WEB拍手掲載:2010.11.5.〜) From:Koumi Sunohara

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