痛みに荒んだ傷跡



私にとって、一番はメビウス様。

それ以上でもそれ以下でも無かった。

決められた時間の中で、メビウス様のお役に立つ事が存在意義だった。

いつか来る終りに心の中で脅えながらも、その何時かが実は来ないのでは無いかと思っている自分が居た。インフィニティーを探す命令を頂いていたこともあったし、FUKOUを集める任務も命じられていた、だからこそ、自分はメビウス様に必要とされている人間だと思っていたのは事実。

故に、急に訪れる終焉の予告を正直私は受け入れる事が出来なかった。

生まれ落ちてから死する時まで…。
メビウス様に決められた一生。

まるで人生のデーターをボタン一つで書き換えられる様に、簡単に訪れる。

この世に絶対が無く、保証などと言う事がまやかしだと思いながらも…その事ですら他人事だと思っていた節があった。

だから、自分の命を短くするであろうカードを貰った時ですら…。

(私はメビウス様の特別なのだ)

(例え自分の身が蝕まれる事があろうとも、私だけはメビウス様の特別なのだから大丈夫)

そんな思いばかり私を占めていた。

メビウス様の駒である存在でしか無いのに、その時の私はそんな事を思った。

プリキュア達の住む世界の者たちなら、こぞって可笑しいと言うだろうが、私にとってそれが当たり前で、それが喜びだと思っていた。そう…全てはメビウス様のためにと…。


そして、終焉が呆気なく訪れる。

メビウス様から頂いたカードはあえなく失い、自分の体に何か蝕まれる感覚と…倒せなかったプリキュアだけが残った。


(正直本当に良かったのか?)

(この選択で良かったのか?)

マイナスな気持ちばかりが浮かびながら、プリキュアを倒すことだけを考えていた。

そんな折、クラインからの手紙。
私の余命を淡々と告げる、手紙という名の通告書。逃れる事が出来ない宿命に絡めとられるように、その時を告げられる。

(嗚呼…ついにこの時が来た)

そう思う反面…。

(何故ですか?何故?)

反する気持ちが私の中に生まれた。

いつか来る終りをしっていてもも尚、私はそんな気持ちになったのだ。

(全ては、メビウス様の為に…)

そう思っていたはずの、私にそんな気持ちが生まれた。

管理される事が当たり前だと思いながらも、私は何処かでそうでは無い何かを求めていた事実に、今更ながら気付かされた。それは、ある意味終わりゆく刹那が決まった故の必然だったのかもしれない。

だから、私は残りの時間はメビウス様では無く、自分の為に使おうと密やかに願った。

(どうせ散りゆく刹那なら、最後は思うままに…)

ただ、終わるぐらいなら、私の心に変化をもたらした、桃園ラブ…キュアピーチとの最後の一戦を望んだ。散りゆく命なら最後に幕を引くのに相応しい人間は彼女しか居ないと私は感じた。

馬鹿みたいに優しく、お人好しの彼女にしてみれば、私の望みなど迷惑以外の何物でも無いかもしれないが、私の最後と対峙する人間は彼女以外に考える事が出来なかった。


おわし

(web拍手掲載:2009.2.28.)改訂:2010.3.31. From:Koumi Sunohara


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