舞い込んだ暑中見舞い



うだるよな暑さ。その暑さに拍車を見事にかけてくれる蝉の大合唱。
命短い蝉の合唱と知れども、毎日毎日鳴かれれば…正直五月蠅くてかなわない。

そんな嫌になりそうな、真夏のある日に我が家…福沢家の元に一通の葉書が舞い込んだ。
時期としては暑中見舞いと言った所で別にこれと言って怪しい葉書と言うわけでは無い。
そう…至って普通の暑中見舞い。

綺麗な空を写したポストカード…余白に少しだけメッセージという洒落た葉書。
かなりセンスの良い葉書である。

家の誰か宛てた葉書だろう事は、福沢家に届いた時点で明確で…しかも珍しく、福沢家には俺しかおらず…母も祐巳も不在だった。
だから、自分が郵便物を受け取るという事態はお正月の年賀状以来の出来事といえる。

そんな訳で、俺は父宛なのか…母…はたまた祐巳に俺…誰宛の葉書か判別すべく俺は宛名をチラリと見た。

其処には、姉の宛名と…よく知る…というかよく知りすぎる名前が書かれていた。

柏木優…花寺学院高等部の前会長にして、祐巳の姉様にあたる祥子さんの婚約者であり親戚。まぁ色々曰くと言うか…逸話などのある人。
祥子さん大好きの我が姉にとってみれば、かの先輩は天敵もしくはライバルといえる人物。

補足として言えば…別段仲が良いとはお世辞にもいえない相手。
まぁ…それは俺自身にもいえるが…柏木先輩は少し…かなり得意な人種じゃない。

(何でまた…祐巳宛てなんだ?)

浮かぶのはそんな疑問ばかり。
別段柏木先輩は祐巳の事を嫌っている訳でも無く…寧ろ気に入っている節があるぐらいだ。

だからと言って、何で突然暑中見舞いを祐巳に出してくるのか皆目検討もつかないのだ。

(知らない内に仲良くなったのだろうか?)

もはや現実逃避に近い思考を浮かべながら、俺は考える。
すると、玄関のドアがガチャリと鳴る音が聞こえた。

「ただいま〜」

うだる暑さの所為なのか、姉の祐巳は間の延びた声音でそう帰宅の旨を伝える。
俺は、気になって仕方がない柏木先輩からの暑中見舞いを片手に祐巳の元へ足を進めた。

「祐巳…おかえり。柏木先輩から暑中見舞い来てるぞ」

「ん?祐麒ただいま…柏木さん?」

「ああ…祥子さんじゃなくて残念だったな」

「良いのお姉様とは会う約束してるんだから」

勝ち誇った調子で言う祐巳に「そうれは良かったな」と言えば、満面の笑顔で返された。

(何だよ…あてられたのか?…それより柏木さんの葉書は謎だ)

「と言うか祐巳何時から柏木先輩と仲良くなったんだよ」

「仲は普通…と言うか祐麒の方が親しいでしょ。だって柏木さんて何時だって、唐突でしょ。それに、内容は兎も角、このポストカードが綺麗だからよし」

「そんなんで良いのかよ」

「良いの良いの。だって柏木さんは深い意味無く出してるはずだもん…その内祐麒にも届くわよきっとね」

ケロリと答える祐巳の一言に、俺は今まで悩んだのが馬鹿らしくなってしまった。

突拍子の無い行動はあの人の十八番で…不思議な事が起きても受け入れてしまうのは我が姉の十八番だという事に…今更ながら気が付くとは…不覚だ。

何だか舞い込んだ一枚の葉書に…俺の夏休みの一コマは振り回された気分だった。
外では、相変わらず蝉の声だけがけたましく響いていた。


おわし

2005.9.26. From:Koumi Sunohara



★後書き+言い訳★
夏風10のお題6番でマリみて駄文。
割とマリみての反応がある我が家ですので、今回はややシスコン気味の祐麒君のお話にしてみました。
勿論柏木→祐巳絡みをイメージしてたんですが…どうでしょうかね。
このCPを書く上で、一番の気苦労人は祐麒君かと思います。
web拍手2005.8.21.〜掲載していたモノです。



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