蝉時雨

−思い切れるれ強さ−


さんさんと照り付ける夏特有の陽射しに耳鳴りに似た蝉の声。
梅雨時期のある日本特有の湿り気のある暑さ。そんな日本から脱出する様に避暑地に行くはずだった海外を蹴って、何故だか私は小笠原家の別荘付近の松平家の別荘に居る。

そしてまた、紅薔薇姉妹も今現在この地の小笠原家の別荘に居る。

夏休みに入る少し前に起きた祐巳様とのいざこざを思えば実に因果な事。
けれど私は和えてこの地に居る。海外に避暑に行った両親を蹴って。
何故かと言う理由なんて正直分からない。

行けば確実に面倒な事に巻き込まれるのは必死だし、小笠原に取り入ろうとする心ない人達の的になる祐巳様を見る事になるのは分かり切った事だった。
わざわさ疲れに行く必要性も感じないけれど、私は今こうしてここに居る。

冷静に考えると正直馬鹿みたいだけど、居る事は事実なのだ。

あえて理由をつけたなら…もう少し福沢祐巳と言う人物を知りたかったのかもしれない。
ともあれ私は少々湿り気のあり暑い日本の避暑地に、居ると言う訳だ。

騒然とした街とは異なる避暑地は静か。コンビニなど無く少々不便ではあるが、スローライフをうたうにはもってこいの場所。
ゆっくりと過ごす休みの空間にしっかり慣れた頃、私は照り付ける太陽に目を細めた。
吹く風は熱風を含むせいか暖かい。

木々のざわめきとともに聞こえる蝉の声。
お世辞にも小さな声とは言えないそれは、耳鳴りに似た蝉の合唱だった。
まるで短い命の最後のあがきの様で物悲しい。

そんな蝉の鳴き声が今の自分の心情をさしている様で直の事切なさを感じる。

リリアン女学院に通う、松平家のお嬢さんが、何に不満だと言うのだと…きっと周りは言うけれど、私にだって不満だって在る。

松平の家に生まれ落ちた時から自由は皆無と言っていい。

家と言う呪縛に捕らえられ、家に絡め取られといく。お金が有ると言う事の…そこそこの名家である事の呪縛。

お金があれば人は幸せになれるなんて真っ赤な嘘だと気が付いた。
無いことが良い訳じゃないけれど、沢山有るから幸せにと言う事には成得ない。

この事に気が付き考える様になったのは、祐巳様と関わってから。
関わらなければ…呪縛を仕方が無いと思い込ませて過ごしただろう。

何処にでもいそうな平凡な祐巳様。弱いのに強い。
もう駄目を…もしかしたら大丈夫かもに変える人。

その人が苦手で大好きな祥子お姉様の妹に嫉妬していたくせに私は、あの方に影響を受けている。

命短い蝉の様に…出来ることをやってみよう。
そんな気分にさせてくれる不思議な人。

蝉時雨を聴きながら、 不意にこの地に居るであろう…私に変化をもたらしたあの人を思い出した。
外はまだ、さんさんと眩しい太陽が降り注いでいた。

おわし


2006.8.8. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
夏風10のお題2番よりマリみて駄文。
松平瞳子嬢の独白で、時間軸は子羊達の休暇って所です。
最近の彼女を見ると何だか、どんどん可愛いく感じております。
祐巳ちゃんの妹に収まると嬉しいんですけど。
ともあれ楽しんで頂けたら幸いです。


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