君と夜空と夏祭り
蒸し暑い夏特有の空気。少し纏い付く様なジメリとした暑さ。
夜に近づいた所為なのか、幾分涼しげな風がフワリと頬を掠める。
夏祭りを感じさせる、連なる提灯の明かりに祭ばやしが風情を出して、夏祭りを実感させた。
行き交う人々は浴衣を着たり祭りで買ったであろう、水風船などを手に持ち楽しそうに歩いている。
本当はこの場に俺が居る事は無く、従兄弟の祥ちゃんがこの場に立つのが相応しく、俺はしがない黒子に徹する筈だった。
だけれど祥ちゃんは、突然高熱を出してここに来る事が出来なかったのだ。
うなされながら、体を起こして祭に行こうとする祥ちゃんを叔父さんも叔母さんも凄く心配していた。
譫言の様に「祐巳が待ってるのよ」と言う祥ちゃんに叔父さん達は困った顔をした。
彼女が誰よりも妹の祐巳ちゃんを大事にしているのは、周知の事実で…急なドタキャン何てもうしたくは無いのだろう事も皆わかっている事。
けれど祥ちゃんが夏祭りに行ける状況では無いのは本人だってわかっている。
こんな時なら、祐巳ちゃんだっていじけたりしないだろうに…祥ちゃんは凄く気にしていた。
寧ろ祥ちゃんが体調を崩している事を彼女が知れば、間違い無く姉である祥ちゃんの見舞いに行くと言うだろうに、祥ちゃんは祐巳ちゃんの心配ばかりする。
誰かに執着する彼女は俺は知らないから、昔の祥ちゃんからは想像がつかない。
けれど今の彼女は確実に祐巳ちゃんに執着してると言える。
姉である祥ちゃんを差し置いて、俺が祐巳ちゃんと夏祭りに行ったとして…祐巳ちゃんに楽しんで貰えるかは不明だ。
寧ろあまり好かれていない確率が高い様な気がする。
けれどそんな必死になる祥ちゃんを見て、何でだか俺は意外な言葉を口にしていた。
「よければ、俺が祥ちゃんの代わりに祐巳ちゃんとお祭りに行って来るけど」
「優さんが?祐巳と?」
酷く驚いた表情で祥ちゃんは、俺に言う。
そんな祥ちゃんに肩を竦めて言葉を紡ぐ。
「今から電話をしても恐らく祐巳ちゃんは家を出た後。祭に来た以上祭に行きたくなるだろう?彼女のことだから。夜に祐巳ちゃん一人で歩かせるわけにはいかないからね」
もっともらしい訳を言う自分に何だか変な気分がしたが、そうとしか言えなかった。
そして不思議な事に、納得させる為の言葉も次々と零れ出る。
「大丈夫ユキチにも連絡するから、途中で合流するから安心して良いよ祥ちゃん。合流した後はユキチに任せるから」
そう言って納得して貰って、俺は祥ちゃんの代理人として此処に居る。
だけど…不安は積もる。
俺が居てガッカリするだろう祐巳ちゃんを楽しませ、祥ちゃんと話す時の笑い話に出来るエスコートが出来るかどうか…そんな不安ばかり。
この夏祭りの夜空を眺めながら、不安な気持ちで君を待つ。
賑やかな祭の音とは真逆の…何とも言えない心のままで。
おわし
2006.11.26. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ web拍手にて2006.10.10.ぐらいから掲載していたモノです。 夏風10お題より、マリみて小話でした。 自覚があまり無い柏木→祐巳の祥ちゃんと柏木さんを交えたお話でした。 この後祐巳ちゃんと夏祭りを楽しめたのか?は…ご想像にお任せと言うことで。 ひとまず楽しんで頂けたなら幸いです。 |
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