祭りの後に

-意外な程に居心地がよい空気-



楽しみにしていた夏祭り。
宵闇に…屋台に…何より大好きなお姉様と過ごせる。
そんな楽しい夏祭り。

けれど、現実は違っていた。


何故こんな事になったのか…正直私には理解が出来無い。
祥子お姉様と祭りに行く予定だった。
けれど、その場に現れたのは…祥子お姉様の従兄である銀杏王子コト柏木さんだった。

「今晩和、祐巳ちゃん」

「コンバンワ…柏木さん」

おきまりの挨拶をするものの、待ち合わせの場所に…姉である祥子お姉様じゃ無いこの人との挨拶に思わず顔を顰めてしまう。

「本当に祐巳ちゃんは正直だね。祥ちゃんじゃ無いから凄いガッカリしてるんだね」

優しく笑って、頭を軽く撫でる柏木さんに私は益々困惑を強くする。

(どうして…柏木さんが…と言うか何故私は頭を撫でられているの?)

「あの…祐麒はきてませんけど」

「うん。知ってるよ。あ…でも祐巳ちゃんを迎えにユキチは来るよ」

「迎えにですか?」

柏木さんの言葉に理解不能の私は、思わずそう尋ねた。
だって、今日はお姉様とのお祭りデート…柏木さんと関係が有るとは思えなかったから。

それなのに柏木さんは、少し困った表情をして言葉を紡ぐ。

「祥ちゃんがねどうしても祭りに行きたかったんだけど、風邪をこじらせてね…。亨伯父様が代わりに行くって…仕舞いにはお爺さままで言い出すから俺が代わりに来たんだ。祐巳ちゃん携帯持ってないから連絡付かないでしょ。で…俺が来たってわけ」

「なるほど。でも何で祐麒?」

「だってね俺とお祭り行っても祐巳ちゃん楽しくないでしょ。ならユキチにお願いした方が安心だ。俺は別に祐巳ちゃんとお祭りでも楽しいけどね」

「そうですか…って。お姉様風邪?だ大丈夫なんですか?」

柏木さんの言葉に納得しながら、私は思いだしたように慌てた。

(嗚呼よりにもよって祐麒や自分のコト優先で祥子お姉様のコトを忘れるなんて妹失格)

少し肩を落として自嘲気味に凹む私に、柏木さんは柔らかな口調で言葉を紡ぐ。

「小笠原の家は大げさだからね。本当に一日寝てれば直る風邪だから安心してね」

「本当に?」

そう尋ねる私に、柏木さんは相変わらず優しい微笑みのまま頷く。

「じゃ何か祥子お姉様に祭り気分を楽しめる何かをお土産に持っていてもらわなきゃ」

「ん?と言うことは俺もお祭りに行くってコトかな?祐巳ちゃん嫌じゃないの?」


「別に柏木さんとお祭りに行くの嫌な感じしませんよ。それに買ったお土産…祥子お姉様や叔母様達に届けてもらえるじゃないですか。リンゴ飴や綿飴何かを」

そうやって言う私に柏木さんは酷く驚いた顔をして、私をじーっと見つめた。

(あれ?私変なコト言ったかな?と言うか柏木さんが私と祭りに行きたくなかったとか?)

反応の悪さに私はそんなコトを思った。

「あの私とは行きたくない感じですか?やっぱり祐麒の方が」

言いかける私に、柏木さんは軽く首を振った。

「別に祐巳ちゃんが問題無ければ俺はかまわないよ。それに…そうだね…真っ赤なリンゴ飴を食べている祥ちゃん何て面白いかもしれないし」

「面白いとか言わないでくださいよ。雰囲気を伝えたいんです私」

「はははゴメンね。まぁ…そうだよね〜お祭りだもんね…それに祐巳ちゃんが楽しんだと言うお土産が無いと祥ちゃん心配して治らなかったら困るしね」

「柏木さん」

「はははソレも雰囲気だよ祐巳ちゃん」

「確かにそうかもしれませんけど」

少し唸ってそう言えば、小さく笑って…それから少し真剣なような表情を作って柏木さんは言葉を紡ぎだした。

「其れではお姫様、お迎えが来るまでの間…僭越ながら私のお相手願いませんか?」

いつぞやのシンデレラの一面を思い出させるような、歯の浮く科白をさも当然のように言う銀杏王子に私は少し頭痛を覚える。
それなのに私は…。

「柏木さんがリンゴ飴を奢ってくれるなら」

何と色気も無い言葉を返したのだった。
その言葉に大ウケする柏木さんと共に祐麒が来るまで私は祭りを満喫したのであった。

意外な人との意外な場所での出会い。
だけど何だか、居心地も良くて。
何だかんだ楽しめたのは…祭りという不思議な環境の所為だろうか?


おわし


2007.7.4. From:Koumi Sunohara


☆後書き+言い訳☆
おつまみ提供所様の夏に関する5題より。
君と夜空と夏祭りの続きのお話です。
相変わらず中途半端な間柄ですが、近すぎず遠すぎずな関係です。
祥子様がお祭りの雰囲気を楽しめたのか?ご想像にお任せと言うことで。
お付き合いいただき幸いです。


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