密やかに想いを込めて




指先が冷え、頬を刺す寒気。
春が間近の如月なのに、肌に当たる息吹は冷たい。
その寒さの中、桜の蕾は来るべき春を待ち今は静かにその時を待っている。

だけれど、この時期は寒さの中に浮き足立つ時間がある。
人にチョコというモノと一緒に想いを伝えるバレンタインと言うイベントがあるのです。

ハッキリ言って便利なイベント。“有り難うや好き”と言う気持を言ってしまえるのだから。
そう思うと…余計にあの方を思い出してしまう。

福沢祐巳様。
きっとあの方は…大好きな祥子お姉様に“好きと感謝”の気持を伝えている事でしょう。
何せあの方は、とても真っ直ぐなお方だから。百面相になったりと、すぐにその様が浮かぶようですわ。

だけど…私は祐巳様の様に素直にはなれません。それは…出会いから今までの経過が色々ありすぎて、素直に言えるわけが無いから。

だって、そうでしょう?今更どの面さげで、伝えれば良いのですか?虫が良すぎますわ。
祥子お姉様との関係に揺るぎをみせた理由も…祐巳様にして来た事も…。
祐巳様が許したとしても、自分の中で許すことが出来ない…きっと周りだってそう思う。

それは、あの方の迷惑になるのでしょう。
そんな事はしたくないのです。

だから私は、面と向かって…正々堂々と貴方に伝える事は出来なのです。
例え…この便利なイベントがあったとしても。

でも…この心にある貴方への好意は…少しでも伝えたいとは思うのです。本当に瞳子は我が儘ですわね。

面と向かって祐巳様に好きとは言えませんが、お世話になっている思いや感謝の気持ちを込めて…このイベントを利用することぐらい許されるでしょうか?
どことなく人を惹きつけるあの方に、他人に紛れて送る事を許してくれますか?

まったく松平瞳子もあろう人物が弱気ですわね。
それとも私が弱気ではおかしいですか?
言いたい放題、傍若無人の私のイメージを…マリア様も可笑しいとお思いでしょうか?この松平瞳子と言う人物を…。

けれど私は、最近自分が何て弱気なのだろうと感じる様になったのです。
他人事ならば、何時もの強気も出るのですが、こと自分事となるとからっきし。逃げ腰で弱い心に一杯になるのです。

それも…良い意味でも…あの方との繋がりが大きいのでしょうね。
だから色んな理由をこのラッピングのように何重にも重ねる事にします。

今はあの真っ直ぐな祐巳様の様に出来ませんが。
何時か貴方のロザリオが似合うと認められる日が来るその日まで…、密やかに松平瞳子を演じます。

だから…今は密やかに想う気持ちを幾重に隠して、このイベントに便乗させて下さい。
義理も本命も…何でもありのこのバレンタインと言うイベントを…。


おわし

2006.3.1.From:Koumi Sunohara



★後書き+言い訳★
web拍手にて2006.1.26.に掲載していたモノです。
マリみて小話…瞳子ちゃんの葛藤って感じです。
新刊触発ネタです…何となく楽しまれれば幸いです。



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