ちぎりおきし
−真実と偽りの狭間−



巡る季節。
移りゆく時…。
湿気と熱気の混じるこの時期は、非常に雨が多かった。

そう季節は初夏に入ると言うところで、晴れ間の間に長い雨が続く時期に入っている。
梅雨の季節。

雨は嫌いじゃない。いいえ…嫌いじゃなかった…。
でも今は好きになれない。


(お気に入りの傘をさして、雨の音を聞けば…憂鬱なんて吹き飛んだのにな…)


浮かぶ思いに感じる苦笑。
不意に縋る唯一の心の晴れるアイテムは…悲しきかな…手元には無い。
故に憂鬱な気分が心を占める。


シトシトと降る雨は、もの悲しさを強くして…私の心を指してるように見えるのは、気のせいじゃないかもしれない。
だって大好きなお姉様とすれ違う日々なのだから…。
そう思い、私は最近の出来事に思考を埋めた。



何度も伸ばされた約束は、遂に途切れ。
当てのない約束すら、交わして貰えなかった日々。

それは祥子様なりの、心遣いなのだろうけど…。何せお姉様は、曲がったことが嫌いな方だから…。
けれど、弱い人間である私にはその心遣いが堪らなく辛かった。

叶わない約束でも良かった。正直そう思ってしまう…。
お姉様にはお姉様なりの考え方があるだろうけど…私の心にはそればかりが巡り出す。


(例え交わされた約束が、嘘であっても…私はお姉様を責める事などしないのに)


思う想いはお姉様に届くはずも無く、シトシトと降り続く雨に、深い闇が広がる気がする。

憂鬱な気持で開く古典の教科書には、百人一首が綴られている。
見慣れた小野小町の一句から、聞き覚えのないようなものまでズラリと並んでいた。

その中の一句に…息子の昇進を約束されながらも未だ叶うことのない約束を嘆く句が綴られている。
私はそれを見てぼんやりと思う。


(何を嘆くことがあろうだろう…)


その古文の一文に私は不意にそう思う。


(社交辞令であれ…何でアレ…。その時は、安心もしただろうし…良かったと思ったんじゃないの?)


約束すら交わしてもらえない私にしてみれば、その句を詠む父親は余りにも贅沢な要望に私は顔を顰める。
普段の自分なら、この嘆く父親の気持ちに理解が示せたかもしれないが…今の自分はそんな気持ちにはなれなかった。
守られる約束より…一瞬の嘘の幸せを求める自分には…。


重く暗い雨雲と真直ぐ降り注ぐ天の恵みが…。
近い将来止んで…明るい日差しが差し込むことを…。
私は待ち望むしか無い。

それはまるで、祥子お姉様が私の元に戻ってくるのを待つようで…何だか切ない気分になった。


END


2005.1.19. From:Koumi Sunohara



★後書き+言い訳★
レィニーブルーの祐巳ちゃんの心の内って所でしょうか。
当サイトでは珍しいく重いというか…暗めの感じのお話になりました。
まぁ…レィニーブルー事態がシリアスな話っていうのも大きいのでしょうが…。
次回は明るい話が書ければ良いかなぁ何て思っています。
此処までおつき合い頂き有り難う御座いました。


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