偶然と言う産物



世の中偶然というものは、数多く存在する。
会いたいと思った人にばったり会う事もそうだし、食べたいものが夕飯に出る偶然。

そう考えると、人と人の繋がりも案外偶然が生み出した偶然の産物の一つなのかもしれない。
人によっては、この偶然を必然だと言い切る人もいるかもしれないけれど…。
俺は偶然でしかなかった。

俺の家は、自営で建築家なんて事をしている家だけど、別に贅沢をする訳でも無く、俺としてはごくごく平凡な一般家庭だと思う。ちょっと裕福な平凡な家庭。福沢家を一言で表現するならば、その一言に尽きるだろう。

父は小さな設計事務所の社長と言うポジションだけど、その辺に居る父親達と変わらない金銭感覚で普通の人だし、母は典型的な専業主婦。学年は同じであるが若干一つ上の姉祐巳もごく普通の女子高生だし、俺も普通の男子高校生だと思う。可も不可も無い感じの平凡な学生だ。まぁコレは俺の解釈なのだが…。

なので例え、少し何かに巻き混まれたとしても心臓に悪い出来事に遭遇する確率はきわめて少ないはず。
だから…今回もきっと自分に大して影響は無いのだろうと思っていたんだ。


姉である祐巳の通う学校リリアン女学院は、典型的なお嬢様学校…俺の所の花寺もある意味そう言う学校だけど、祐巳以上では無い。
ともあれ、平凡な福沢家に住む二人はそんな学校に通っているのだけど。そこは別に良いとして…。
今回はその姉祐巳の事だ。
姉祐巳の通う学校は普通では考えがたい、姉妹制度なるものが存在しているそうだ。上級生が下級生を妹の様に可愛いがり、見守り伸ばしていくものらしい。

けれど祐巳も母も(学生時代だが)姉となる人はいなかったそうだ。
母いわく…「憧れのお姉様はいたけれど、叶わなかったのよ」と…未だに夢見る少女の様に言っていたのは記憶に新しい。

その遺伝子が着実に受け継がれたのだろうが?姉のいない祐巳にも、憧れのお姉様とやらが居るらしい。

「祥子様って凄く素敵なのよ。ピアノが凄上手くて…何もかも完璧なんだから」

昔話しをしていた母同様、夢見がちに言う祐巳に親が親なら子も子だとつくづく思う。
その度に俺は「良かったな。そんな良い先輩で」と相槌を打つ度に「やる気無い」とお叱りを受ける。まぁ…それは別にどうでも良いけど。

祐巳と母の話をまとめると…。
リリアンは別に無理して姉妹制度を強要しているわけでは無いと言う事だと思う。実際祐巳も特に「お姉様を作らないといけない」と言っている訳でもなかった。
そうならば、俺は別に祐巳の思う通りにすれば良いのだと思う。
例えば…憧れの祥子様とやらに妹にして下さいと言ってみてもいいし…憧れのまま眺めていても良いと思う。

(まぁ弟の立場として…少しでも“祥子様”と言う人と祐巳が親しく慣れれば良いのにな)

ぐらいに応援してる。
流石に福沢家の狸娘である祐巳とお嬢様である祥子様との姉妹関係は…失礼ながら想像がつかない。祐巳には悪いけれど。

それなのに…幸か不幸か…運命の女神様は何故か狸顔の俺の片割れに微笑んだのだから世も末だ。
学園祭準備期間中に親しくなった話は聞いていたけれど…まさか学園祭終わって姉妹になっているのだから世の中よく分からない。

けれど、偶然だろうが何だろうが祐巳が憧れの…その人と姉妹になれたのは紛れもない事実で…愚痴や賛辞を聞いていた身近な人間としては嬉しいものだ。

俺はこの時、心の底から「良かったな」って言えたんだ。
まぁこの先…違う意味の偶然が付いてくるなんて、この時の俺も祐巳も想像なんてできやしなかった。
そう…偶然が呼び起こした産物って奴を…。

おわし


2007.9.5. From:Koumi Sunohara


後書き+言い訳
マリみて駄文柏木+祐巳20お題より。
初めの頃の祐麒君視点のお話です。
この先巻き込まれるとは思いもよらず。
平凡が一番強いのかもしれません。


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