待つよりも…
何時も唐突にやってくる、俺の烏帽子親で…前花寺生徒会長である柏木先輩は今日も歪み無く唐突にやってきた。
正直、こういう登場の仕方をする時の柏木先輩には良いイメージは無いのだが諦めの境地だった。
そんな俺の気持ちなど相変わらずお構い無しに柏木先輩は言葉を紡いだ。
「最近は男も待っているだけでは駄目だと思わないか?ユキチ」
意味深な言葉でそう紡ぐ柏木先輩に俺は、小さく溜め息を吐く。
「籔から棒に何ですか?」
「ん?ユキチ、2月のイベントは何かな?」
「節分では無いですよね。だったら、バレンタインって事ですか?」
「そうそう。バレンタインだよユキチ」
俺の返答に嬉しいそうに応える先輩に俺は首を傾げたくなる思いでいっぱだった。
(柏木先輩って異常にモテルのに何言ってんだ?)
俺の不思議な表情に気付いた柏木さんが苦笑を浮かべる。
「本当にユキチといい祐巳ちゃんといい正直だね。察するに、何を言ってるんだ?と言うところかな?」
わざとらしい言いぶりに、俺は顔をしかめる。
(判っているなら…いや…わざとだ…)
心の中で愚痴りつつ、柏木先輩の次の出方を待った。
「沢山の好意も確かに嬉しいが、やはり意中から欲しいと思うだろユキチ」
「先輩」
「ん?」
「本当に男の敵ですよね」
冷めた目で見てそう言えば、柏木先輩は肩を竦めてみせる。
(ったく…そう言うポーズも一々様になるから、余計腹立つんだよな〜。少しだけ祐巳が、この人を苦手な気持ちがよくわかる。しかも悪気が無いからたち悪いんだよな〜。やになるよ)
「そんな事を言われてもね。ユキチだって不特定の人よ好意を持った人からのプレゼントの方が嬉しいだろ?」
「そりゃまぁ」
「そうだろう、そうだろう。そこでだ、ユキチ」
「はぁ」
気の無い返事の俺にお構いなしに柏木先輩は続ける。
「逆チョコが流行っているらしいじゃないか」
「あるみたいですね」
「今年は逆チョコを贈ろと思う」
「そうですか。で…何でソレを俺に言うんです?」
そう尋ねれば、柏木先輩はさも当然と言う顔で言葉を紡ぐ。
「ん?だって渡すのはユキチの姉君である祐巳ちゃんだし…手作りでいこうと思うからね」
「祐巳ですか?」
一応言葉を返しながら(相変わらず祐己は柏木先輩に好かれてるな〜…本人は不本意だろうけど)などと思う。
「ああ。祐巳ちゃんだよ」
「そうだとしても俺の言う必要は無いと思うんですけど」
「何を言うユキチ、ユキチも共に手作りするには決まっているじゃないか」
「はぁ?何でですか?俺別に相手いないんですけど」
「好意は色々だよユキチ。感謝や友好も好意の一つだ。例えば祥ちゃんに渡したらきっと喜ばれるだろう」
「いや…祐巳に怒られますって…」
「祥ちゃんは喜んでくれると思うけどな〜。だったら、祐巳ちゃんやユキチのお母さんでも良いじゃないか?」
「先輩…俺もやるの決定事項なんですね」
「ああ勿論。何せユキチは俺の烏帽子子だしね。当然さ」
女子に人気だという微笑を浮かべて柏木先輩はそう言いきった。俺の嫌な予感は見事に的中したのである。
人生初のお菓子作りに巻き込まれる事になったのである。結果?…まぁ…人生上手くいかないとだけ言っておく。
おわし
2014.4.27.(WEB拍手掲載日:2013.2.1.〜)From:Koumi Sunohara