限りなくIfの話


ある晴れた昼下がりの小笠原邸。
庭の木々は勿論手入れが行き届き、キラキラと新緑が眩しい。
そんな絶好のポジションで、優雅にテラスでお茶を楽しむのは…この小笠原家の一人娘である小笠原祥子様とギンナン国の王子と名高い柏木優その人がそこに居た。

勿論、教養なり作法なりを完全にたたき込まれているこの二人において…休日だろうがだらけたような隙が無いのは言うまでも無いだろう。
ともあれ本日、祥子と柏木は何となく休日を共にしていたのである。

のぼる話題と言えば、お互いのお気に入りの福沢姉弟の話題ばかり。
それでも、彼女らは不快な気分などせずに…祐巳と祐麒自慢大会に花が咲く。
あの時の祐巳が可愛かった事から祐麒のシスコンぶりまで…もはや福沢姉弟観察記録の意見交換へと話題がズレかけた時に、祥子の紡いだ言葉が更に話題を大きく変えさせたのである。


「優さんは祐巳の事好きよね」

「ああ勿論祐巳ちゃんは可愛いじゃないか」

「そう…好意を持っているのね」

確認をとるようにそう言う祥子に、言われた柏木は不思議なモノを見るような気分であったが…なるべく気にしないように紅茶のカップに口をつけた。

「では優さんが私の祐巳とおつき合いすれば万事解決だわ」

サラリと爆弾を投下する祥子に、柏木は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
まぁ…ここで吹き出さなかっただけ、彼の根性を褒めるべきなのかもしれないが…。

「ちょっと…祥ちゃん…何を突然言い出すんだい?」

少し動揺気味に柏木が言えば、祥子はさも当然の事を言いたげに言葉を紡ぐ。

「だって祐巳は祐麒さんの姉でしょ…リリアンの学祭で実証したように、そっくりだわ」

「まぁ祐巳ちゃんとユキチはそっくりだけど…だからって…ものすごく急な話じゃないか祥ちゃん」

祥子の言葉に困惑気味に柏木が言い淀めば、彼女は表情を崩すことなく笑顔だった。

「優さんが言い出した言葉だった気がするわ。よそに恋人が云々って…」

ニッコリと有無も言わせぬ微笑みのまま祥子は柏木にそう返す。

「君の大事な妹だろ」

そう柏木が続ければ、祥子はすかさず「当然です。祐巳は大事な私の自慢の妹よ」と姉馬鹿全開で言葉を切り返した。
さすがの柏木もその祥子の言葉に閉口し、呆然とした表情を浮かべた。

そんな柏木の表情を見た祥子は、悪戯を成功させた子供の様な表情を浮かべる。

「何てね。言ってみただけです。そうね…もしも優さんが本気になって…私が認めたとしても。祐麒さんは凄い剣幕で優さんにくってかかるでしょうけど」

「ユキチはシスコンだからな〜」

お気に入りの後輩を思い出しながら柏木は、苦笑気味に言葉を吐く。
そんな柏木に祥子は、余裕の微笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

「祐麒さんだけじゃ無いわよ。蓉子お姉様をはじめ先代薔薇様方及び現在の薔薇・蕾は間違いなく祐巳サイドの人間だし…。瞳子ちゃんや細川さん…リリアンの生徒…忘れてはいけないのは、お父様とお母様…もしかしたらお祖父様も祐巳を大変気に入ってよ」

「花寺にも祐巳ちゃんのファンは腐るほど居るが…お祖父様もお気に入りとは…恐れ入ったね」

祥子に返すための言葉を紡ぎながら、柏木は(中でも佐藤聖を始め…元薔薇様方厄介だろうな)と心底そう思う。
心底参ったといった顔をする柏木に、祥子は「それだけ私の祐巳は人を引きつけるのよ」と自分の事のように嬉しそうに口にする。

「じゃ何かい…。祥ちゃんは僕に報復でもしたいのかな?敵は大勢…多勢に無勢ってね」

半ばやけくそに呟く柏木に祥子は、肩を竦めて言葉を返す。

「あらやだわ優さん。別に今すぐに戦えとか…祐巳をあげるなんて私一言も言ってなくってよ」

勝ち誇り…してやったりといった表情で祥子は言い切る。

「だってこれは…もしもの話ですもの」

楽しげに笑いながら祥子は優雅にカップに残った紅茶を啜ったのだった。

後に残ったのは、少し冷めた紅茶と…困惑の色の強い柏木の姿だけ。
そんなこんなで、優雅な休日は過ぎていったのである。


おわし


2005.5.2. From:Koumi Sunohara

★後書き+言い訳★
2005.5.2.web拍手に掲載していたモノです。
レイニーブル以降…祐巳ちゃんを挟んで、柏木さんと祥子さんの関係が良好なのでは?
と言った妄想より出来た産物です。
実際問題、祐巳ちゃんは新旧薔薇様に愛されてる存在なので…絶対相手は苦労しますよね。
ともあれ、楽しんで頂けたら幸いです。


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