青天の霹靂…そんな言葉が似合うような、それは、突然の出来事だった…。
煙るように満開の桜が咲いた頃、学校では新しい学年に上がる事を知らせていた。
真新しい学生服に身を包む新入生や、見慣れた顔の同級生に少し落ち着いた雰囲気の下級生。それぞれの想いが交差しながら新学期を迎え、学年を新たにする。
その事は、例にも漏れずに俺にも同様に起こりうる出来事。別段悪さもしれいないし、赤点も少なからず取っていない俺は、無事に進級をし最上級生に進級している。
相変わらずボロボロの制服は、花寺で起きた様々な出来事を象徴しているようで、何だか嬉しいやら恥ずかしいやら微妙な心境だと切実に思う。
新入生の時に迂闊にも柏木先輩に捕まってから、中学校の時では味わうことの無い様な平凡とはかけ離れた日常が巡り、姉の祐己共々学校の中枢に居るのだから、世の中何が起きるか分からない。
祐己は祥子さんという姉様とやらが出来たことで変化して、俺は良く分からない内に柏木さんに出会い烏帽子子にされた。
繋がる共通点があるとしたら、兄弟そろって小笠原家に関わってしまったと言う点だろうか。
(実に因果だよな)
何だかんだと、祐己経由で祥子さんと知り合ったりと…祐己は祐己で祥子さん経由で柏木さんと知り合いだとか…本当に世界は狭い。
目まぐるしく過ぎる時と共に、俺の学年も上がり、花寺の高校生生活も今年で最後と思うと少し考え深いものがある。
このまま、大学に上がれば…結局花寺とのかかわりは途切れる事は無いが、今はそんな事を考えるのは一先ずよしておこう。何せ、新学期で新しい学年のスタートなのだから。
桜が例え満開であろうとも、毎年の通り入学式が有り、クラス合わせがあり、生徒会の打ち合わせがある。これが、終われば家路に着けると思う所為か、何時もより生徒会の面々の集中力は高く、簡単に打ち合わせが終わる事が出来た。
最後の戸締りもあり、早く帰りたいであろう面々を先に返した俺は、一人家路につこと校門をでようとした。そんな絶妙なタイミングで、予想外の人物が声をかけてきた。
「ごきげんよう。祐麒さん」
物腰柔らかな口調で、車から降り立つた祥子さんは、俺にそんな挨拶をしてきた。流石、祥子さん、同じ学校に通っている祐巳とは格が違う。
祐巳と柏木さんと一緒に乗った車を背に、映画のワンシーンを切り取ったかと思わせる祥子さん。
俺は慌て、頭を軽く下げて彼の人に挨拶の言葉を紡いだのだった。
「こんにちわ、祥子さん。柏木さんにご用か何かですか?」
挨拶の言葉と共に、恐らく祥子さんの用事を予想しながらそう尋ねが、祥子さんは綺麗に微笑みながら首を横に振った。
どうやら、目当ては柏木さんでは無いらしい。
その現状に、今度は俺は首を捻る。
(じゃあ、祥子さんは花寺に何の用があるんだ?)
不意に浮かぶ疑問。
男性がお世辞にも得意では無い、祥子さんと花寺は正直繋がらない。
(まさか、リリアンでの伝達を頼まれた?)
「流石、姉弟ね祐麒さん、祐巳と同じ百面相よ」
笑いを堪える事をせずに、祥子さんは楽しそうに笑いながらそう口にした。
俺はそんな祥子さんに、実に微妙な表情で見返した。
「ごめんなさいね祐麒さん。そんな表情をさせてしまって。でもね、本当に貴方達は似てるわね」
「いいですよ。柏木さんで聞き慣れてます」
脱力しながら、そう返すと祥子さんは「やだ、優さんたら」とそこに居ない人をたしなめる様に呟いた。
そして、予想外な言葉を紡ぎだしたのだった。
「それよりも祐麒さん、此処では悪目立ちしてしまうわ。早く車にお乗りなさい」
さも当然のように、紡ぎだされた言葉に俺はわが耳を疑った。
(え?今祥子さん何て言った?車に乗れっていったか?)
不思議そうに、祥子さんを見る俺に、祥子さんは有無も言わさぬ表情で再度言葉を繰り返した。
「ほら、ボーっとしてないでお乗りなさい祐麒さん」
「あ…はい」
2度目に紡がれた言葉に、俺は姉の祐己でもあるまいに、何故か分からないがその言葉に従ってしまったのである。
前回の車の運転の時とは比べ、スムーズに運転する祥子さんに俺は正直感心していたりした。と言うよりも柏木さんの車に比べたら、実に快適に過ごせる。
何より、運転しながら会話が成立するのだから、祥子さんの頑張りは相当のものなのだろう。
「そう言えば、わざわざ花寺に何の用だったんですか?」
当初から疑問だった言葉を、俺は祥子さんにぶつけてみた。
「いいえ。今日は祐麒さんと出かけようと思ったの」
「俺ですか?祐己じゃなくて?」
「ええ」
さも当たり前のの様に言う祥子さんに、俺は良く分からない気持ちでいっぱいだった。
姉妹という関係の祐己と祥子さんとの繋がりは深いもだと言う事は分かっているが、何故姉の祐己を差し置いて俺なのかは、正直理解に苦しむものがある。
祐己に似ている俺は、祥子さんの中では付き合いやすい部類ではあるとしても…やっぱり良く分からないと言うのが俺の中での見解だ。
「何故俺の何だろうと思ってる顔だわ」
「はい。正直何で何だろうと思いました」
素直に返す俺に祥子さんは優しく微笑み返した。
「確かに祐麒さんは祐己に似てはいるけれど祐己では無いし、優さんと同じ男性。それは、分かっているのだけどね、祐麒さんとは普通に話す事も出かける事が出来る私の数少ない人なのよ」
「はぁ…」
「祐麒さんには迷惑な事かもしれないけれど、祐己では無く祐麒さんと今日は出かけようと思いついたの。何せ今日は桜は満開で、入学式だから祐麒さんを捕まえやすいと思ったのよ」
「別に迷惑では無いですが…柏木さんじゃなくて良かったのかと」
「優さんは、会おうと思えば何時でも会えるもの。そうでは無い人と出かけてみたと思ったのよ。正直言うと、大学生になって、山百合会と家族や親類。祐己や他の薔薇様、それにお姉様との多くの思い出や繋がりはあっても、勿論、令とも仲が良くても…それ以外の外部の仲の良い人が居なかった事に気がついたの。そう考えた時、私の世界はあまりにも狭いものだと切実に感じたわ」
そう口にした祥子さんの表情は、少し寂しそうに感じた。
(祐己で無くても、これは心配になるよなぁ)
祥子さんの言葉を聞きながら、崇拝に近いぐらいに祥子さんをお姉様と慕う実の姉を少し思い出す。
「祐己と違って祥子さんとの繋がりが深いわけでは無いので、よく理解できない面が多々ありますけど。俺でよければお供しますよ。それに迷惑なんかじゃ無いですし」
「ありがとう祐麒さん」
「それで、どちらに向かいますか?」
「そうね…桜に誘われて思いついたのだから、お花見に行きましょう。そして、良い場所だったら今度は祐己達も誘って行けるようにね」
花がほころぶ様に楽しそうに祥子さんはそう言った。
雪の様に舞う薄紅の花弁を見に、祥子さんと俺は妙な組み合わせながら花見ドライブに向かったのだった。
後に、この件が祐己に知れ凄く不機嫌になったのはまた、別のハナシ。
おわし
2010.1.7. FROM:Koumi Sunohara
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