別れと、出会いと
出会いがあるから別れがある。季節があるから移ろう。
それは全て必然と言っても良いかもしれない。
夜の茅が降りるのが大分遅くなったこの頃。
吹く風が暖かくなって、土と緑の香り、ふわり薫り、視覚でも桜の花が咲きほこ
り、春が来たとしみじみと思わせる。
北国と違って、雪が溶けたら春がくるのではないけれど、ゆるやかに巡ってくる
春の足音は確かに感じている。
川縁の蕗の薹や土筆が桜以外に春らしさを醸し出す。
そんな春の陽気を感じると、つい最近の出来事を思い出す。
華寺に通い、高校を最後とした春に出会った後輩達の事を…。
華寺には、平氏と源氏が分かれていて、必然的にどちらかに在籍する。
それを判断するのは生徒手帳。
仲間を見分けるシステムになっている。
だから自然と、平氏は平氏と過ごし、源氏もしかり。
その中で、俺はどちらでも無い。
それでも、柏木優という存在は、どちらでもない異に対してお咎めが無い。
(まぁ、どちらの部活に分け隔てなく所属しているから咎められる覚えも無いんだけどね)
ともあれ、おっぴらにどちらも選択をしないという選択をした人間は華寺に居ないのだ。
それが普通と言えば普通なのだろうけど。
そんな折に、俺は大ぴらに関所破りをする、無謀といえる後輩に出会った。ユキチこと、福沢祐麒。
パッと見平凡なタヌキ顔の元気の良さそうな普通の生徒。
そんな生徒が、誰もがやらなかった関所破りをやってのけた。
平氏と源氏も選べなかったからと言う実にシンプルな答えで、行ったと云うから実に面白い。
それがユキチとの出会い。
何となく、変わらない日常に厭きてきた感があった俺は、学校の事もいま一つ理解していないユキチの生徒手帳に烏帽子親が書く欄に、自分の華押を書いた。一言で言うなら気まぐれ。
柏木優という人物をよく分からない新入生に対する興味と、かかわってみたら面白いかもしれないというそんな好奇心で、ユキチの烏帽子親に勝手になった。
まぁ後に、アンドレとユキチの謎の賭けが関わってくるんだけど。この時は特に気にしていなかった。
本当に学校生活が面白くなれば良いかぐらいだった。
従兄妹である、祥ちゃんの通うリリアンの姉妹制度のように、凄い絆があるわけでは無いからこその気楽さだったのかもしれない。
それでも、今まで出会った事が無い人種であるユキチとの烏帽子親と烏帽子子の関係も思いの他面白い。今まで出会った事な無いタイプだった所為かもしれない。一人で百面相する様も面白い。
そして、ユキチの周りにいる人間も不思議と面白い。対等であり、それでいてそれぞれが個性的だ。
そんなユキチ達の関係に少し、自分では手にする事が出来ない、友人関係にうらやましい気持ちもするけれど、少しでもその空間を感じる事が出来る事に嬉しい気持ちになる。
代り映えしない筈の日常が、新鮮な新しい生活に変わったのは、ユキチ達のおかげなのだろう。
日常の別れ、新たな始まり。
華寺の最後の高校生活は本当に楽しくなったと思う。
これからも…きっと面白い事がユキチ達と過ごせるのだろうと思えば、今までの日常と別れても良かったと思う。
おわし
2009.7.3.(WEB拍手掲載→2009.5.7.) From:Koumi Sunohara