リボンとカードと僕と君
大切な人へ贈り物をする時は、色々とワクワク感だったり、喜んでくれるかの不安感がある。
勿論、前もって好みとか、趣味とか調べるのは当然必要だから、リサーチにだって余念が無い。
けれど不測事態が起きる事だって勿論ある。例えば、他の人とプレゼントの内容が重なったり、一足先に本人がそれを持っていたり…はたまた、趣味が変わったり。
まぁ、そんな事を考えていたら他人にプレゼントなんて贈れ無いんだけどね。所謂、贈り物を考える醍醐味だと考えればそれは楽しみともいえる。
何て思いながらも、実は今回プレゼントをしょうとしている子にはそんな自信も揺らいでいたりする。
福沢祐巳ちゃんへの贈り物は、正直上手く働かないのが現状。さりげなくユキチにリサーチをかけたり、祥ちゃんに探りを入れたり、瞳子や小笠原の叔母に尋ねれば…中々教えてくれるのは難しいが、彼女の好みのものをプレゼントすることができるだろう。
そうすると、自分で選んだプレゼントというにはパンチが足りないと言うか、自分の中でも何か消化不良するような気持ちになる。何というか、ただの自己満足の問題というにはそれまでのような気がする。
気持ちの問題ってやつだ。
祥ちゃんから引き継いだ紅薔薇様と呼ばれる君へのプレゼントを真紅の薔薇の花束を贈ると言ったら、君はきっと盛大に顔を顰るだろうか?
「本当に柏木さんは気障ですね」
そんな言葉を紡ぎながら呆れた表情をするのだろうか?
それとも、そんな表情をしながらも少しは花束には喜んでくれるだろうか?
「気障ですけど…この花束には罪はありませんし。受け取ります…有難う柏木さん」
そんな風に言ってくれたなら、きっと柄にも無く俺は嬉しく思う。
けれど、現実はそんなに甘いののでも無い。
紅薔薇様になった祐己ちゃんは、きっと後輩からも沢山プレゼントを貰うだろうし…妹の瞳子…他の薔薇様方や祥ちゃん…引退した山百合会の薔薇様方…叔父に叔母…はたまた祖父まで、祐己ちゃんの誕生日を祝うだろう。彼女は謙遜するかもしれないけど、祐己ちゃんが思っているよりも彼女は多くの人に愛されている。
そう思うと、抜け出せない迷路の様に彼女への贈り物は悩んでしまう。
「美味しいケーキ屋さんに行かないか?」
甘いお菓子を餌にして、彼女を誘ってもきっと訝しそうな表情と「瞳子も一緒ですよね」と間髪入れずに言われるのが目に見える。
花束も…お菓子もプレゼントとしての威力に欠ける。
気にしなければ良いと言えば、そこまでではあるし…相手が祐己ちゃんじゃなければそれでも良いと思う。我ながら酷い思考回路ではあるのだけど…。
受け取ってもらえるプレゼントはやはり、失せ物が好ましい。手元には残らないが、記憶にはどこか残る。受け取った相手は、意外に気兼ねしなくて良いと言う寸法。
(遊園地…ケーキバイキング…コンサート…思い浮かぶのはその辺りだけどね…祐己ちゃん皆に愛されてるからな〜)
俺としてはデートに誘うと言うのが手だけど…こりゃまた各方面からの妨害がありそうで、踏み出せそうに無い。悪意のある妨害から、悪意の無い妨害まで…山盛りいっぱいありそうだ。
(悩んでも結果が同じなら…悩むだけむだかな?)
打つ手なしの状況に、思わず浮かんだそんな言葉。
(何だかんだ文句を言いながら、祐己ちゃんは優しいからどんなものでも受け取ってくれるだろう)
他人を本気で憎めない福沢姉弟の普段の行動を思い浮かべてそう思う。
(どうせなら喜んでもらいたいんだけどね…それは贅沢なお願いかな?)
巡らせる思考を外す様に、一つ溜息を吐いた俺の目の前には瞳子から貰ったドライフラワーのミニブーケが何故だか目に留った。
(そう言えば瞳子や祐己ちゃんって髪にリボンを付けていたな)
「ああ…そうか…リボンね」
従妹の瞳子の様な縦ロールを二つに縛ってはいないけれど、祐己ちゃんのトレードマークはツイーンテール。髪を束ねるリボンやゴムは日常的に使うのでは?と机に置かれた小さなブーケを束ねるリボンを見て俺はそんな事を思いついた。
(変な柄じゃない限り…何時か出番がくるだろう)
ツイーンテールの君に似合うリボンを花束とカードに1本づつかけてプレゼントをしよう。
カードや花束はきっと、しかめっ面で受け取るかもしれないけど…そのリボンはきっと、「もったいないから使おうかな?」と何気なく祐己ちゃんの日常に残るだろうから。
風に揺れるツイーンテールと俺の贈ったリボンが、そんな日常にある事を祈って。
彼女の贈り物を其れにする事にした。
願わくば、俺の意図に気がつかずに…何気なくリボンを使ってくれる事を心から祈る。
おわし
2010.8.12. From:Koumi Sunohara