| 花も恥らう乙女 |
人間は誰しも他人様に言えない事が一つ二つ存在するだろう。
それが例え大なり小なりだろうとも…必ずあるものだ。
例えば、テストの点数を親に言えなかったり…好きな相手に告白できずに居るとか…。
まぁ例を挙げればキリのないことこの上ない。ともあれ、誰であれ密やかな秘密を抱えていると言うことなのだ。
勿論…紅薔薇の蕾である福沢祐巳もそんな一人だ。
リリアン女学院において、紅薔薇様の妹君である少女だが…彼女は色々な意味で一般人代表といって良い存在。
だから祐巳にだって、大好きな祥子お姉様に言えない事も山ほど存在するというのは想像しやすい事であろう。
何というのだろう彼女の場合は、祥子様絡みにの内容が殆どだろう。
そんな福沢祐巳は休日である本日買い物がてら、街の中を歩いていた。
そしてしばらく歩いた祐巳はピタリとある店の前で足を止めた。
シンプルな外装だが、なかなか女性心を掴むインテリア…少し高級感の漂うカフェが其処にあった。
(ううう…祐麒が用事があるって言って一人で来たものの…どうしよう…)
眉間に盛大な皺を寄せて祐巳は、お店と地面を何度も見比べた。
だが、そんな祐巳の心中などしなない周りにとって…かなり不審な女の子であることに彼女はさっぱり気が付いていない。
(でもなぁ…今日限りの限定ケーキバイキング…逃す手は無いのだけど…。一人ではいる勇気が無いよ〜)
祐巳は「はぁ〜」と重い溜め息を一つ吐く。
(お姉様と一緒に行きたいけど…沢山食べる所なんて見せれないし…由乃さんや志摩子さんにも頼みづらくて祐麒にお願いしたけど…駄目だったし。本当についてないよ)
再度重苦しい溜め息を吐こうとした時だった、不意に祐巳の背後から聞き慣れた声がかけられた。
「おや…祐巳ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」
出過ぎと言って良いほどの爽やかオーラを出して登場したのは、祐巳の姉の婚約者殿。
ギンナン国の王子にして光の君の称号を持つ柏木優だった。
正直出会った祐巳は、思わず百面相を大披露してしまったのは言うまでもない事だろう。
(何で何時も何時も柏木さんには、格好悪い所ばかり遭遇されるのだろう)
などと内心舌打ちしたい気分で一杯の祐巳である。
本当に色々な面で柏木とは、変なところでよく出会う。
「ごきげんよう柏木さん。こんな所で会うなんて…き…奇遇ですね」
上擦りながらも頑張って挨拶をする祐巳に柏木もソレに習って挨拶を交わした。
「ごきげんよう祐巳ちゃん。祐巳ちゃんはケーキを食べに来たのかな?」
祐巳と柏木の目の前にある、カフェを示しながら柏木はさも当然そうにそう言った。
「いえ…ただの買い物ですよ」
思わず乾いた笑いも出てきそうなほど、祐巳は白々しい口調で柏木に言った。
「そうなのかい?」
祐巳を見ながら柏木は、少し疑問気に言葉を返した。
そんな柏木に祐巳は、取りあえず納得して貰いたくて首を縦に振った。
「そうですって。何というかたまたま、ウィンドーショッピング中に引きつけられただけですって」
「まぁ…祐巳ちゃんがそう言うのなら、今日はそうしておくよ」
ニッコリと爽やかに笑い、祐巳の頭を撫でながら柏木は言う。
(相変わらずだなぁ柏木さん。まぁ有り難いけど…)
祐巳の胸中など知らない柏木は、自分が何故此処に居るのかを語り出した。勿論祐巳は説明など求めていなのだけど。
「ちなみに俺は此処のケーキバイキングに入ろうかなと思って来たんだけど…可笑しいかな?」
(え?私と同じ目的なんですか?…ビックリだ)
柏木の言葉に驚く内心を一生懸命に隠しながら祐巳は慌てた様に、首を横に振りながら言葉を紡ぐ。
「いえいえ。変じゃないです」
「うん。それは良かったよ。祐巳ちゃんに変だと思われたらかなりショックだからね」
むやみやたらに垂れ流すキラキラオーラに祐巳は呆れを通り越して、感心した表情を浮かべた。
(此処まで完璧に爽やか貴公子オーラを出す人は早々居ないよね。もう根っからの王子様なんだなぁ〜…流石瞳子ちゃんの血縁者…俳優さんだ)
などとぼんやり思う。だが祥子様もまた、このギンナン国の王子の血縁者だと言うことは完全に頭から抜け落ちている祐巳だった。
「それでね祐巳ちゃんにお願いがあるんだけどね…良いかな?」
「何ですか?」
「男一人で此処に入るより。可愛い祐巳ちゃんとご一緒出来たらと、俺としては思うんだけどどうかな?」
悪意ゼロ…爽やかスマイルで美味しいお誘いを言う柏木に、祐巳はコクリと首を縦に振った。
「私で良ければご一緒させてください」
柏木は優雅に祐巳に手を差し出し、店の中へと誘導していった。
美味しくケーキをたらふく食べた祐巳は、柏木相手に話しに花を咲かせていた。
少し格好悪い所をさらけ出した所為なのか、祐巳の中で柏木のイメージが大分良い方に向き始めていた。
(実は結構気があったりして…なーんてね)
ぼんやりとそんな事を思いながら、祐巳は色々思いを巡らせた。
(お兄ちゃんが居たらこんな感じ?でもなぁ〜狸顔じゃ無いもんね柏木さん)
「どうしたんだい祐巳ちゃん?百面相になっていたよ」
「いえいえ。今日は何だか楽しかったなぁ〜なんて思ってたんですよ」
「そうかい?俺で良ければ何時でもつき合うよお姫様。大好きな祥ちゃんの代わりが務まるか心配だけど…俺としては精一杯勤めるつもりだよ」
パチッとウインク一つして柏木は、歯の浮く様な科白をサラリと言う。
言われた祐巳は慣れては居たものの呆気にとられて、直ぐに反応が出来ずに居た。
柏木はそんな祐巳の様子を微笑まし気に見つめながら、一旦切った言葉を続けた。
「まぁ祐巳ちゃんさえ良ければだけどね」
そう言った柏木は、ご丁寧に祐巳を福沢家まで送り…送り際にそう言って去っていった。
後に残された祐巳は何も言えずに、ただ去りゆく柏木の背中を見送ったのだった。
「祥子お姉様の事や祐麒の事がなければ…純粋に好意のもてる人なんだよな〜。でも…どんな事があれ憎めない人なんだよねきっと」
などと思いながら。
おわし
恋と言うには満たなくて
友人と言うには…近い距離
この関係を同士と言うべきなのか謎であるが
一つ言える事は…
乙女心は何時の世も複雑なのである
2005.6.16. From:Koumi Sunohara
| ★後書き+言い訳★ 花華10のお題よりマリみて小話柏木+祐巳です。 2005.5.31.からweb拍閧ナ掲載していたものです。 でも少しだけCPよりです…相変わらずの恋愛未満です。 こんなお話ですが楽しんで頂ければ幸いです。 |
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