藤代のスパイ大作戦渋沢編〜2度あることは、3度ある?〜



武蔵森中学校 とある月曜日の風景ー
 サッカー部内で騒がれていた噂。
ー渋沢克郎・月曜日の謎ーは、いつのまにやらこの学園全体に広まっていた。

「知ってる?サッカー部の渋沢さんの噂。」

「もちろん!宇宙人と交信してるんでしょ?」

「おれはコスプレつくってるって聞いたぞ!」

「そりゃぜってーねーよ、せめてマンガ喫茶にしとけよ 」

「…それもないって 」

等など呟かれている。
そして職員室でも…

「あの優等生・渋沢の噂知ってますか、先生。」

「あの!優等生・渋沢の噂を知らないはずないでしょう、先生。」

…以下略ー

 そしてやはり前回の無念をはらすため、その謎に挑むのはこの少年!

「もう、あいつに期待するしかないよ。」

「あいつならきっとこの謎を解いてくれる!」

「ハッハッハッ…こういう時しかあいつは頭を使いませんからなー。」

「頭は関係ありませんよ、先生…ようは俊敏さでしょう、尾行は。」

次々に少年に期待する声が飛び交う。

そしてここにも一人…

「またやんのか、あのバカは。懲りろよ、少しは 」

あきれてる奴がいた。
 一人の非難はおいといて…全校の期待に答え、渋沢克郎の追跡を成し遂げることができるのか!藤代誠二!!
その頃、追跡者・藤代誠二はというと…

「やっばー、遅刻だよ〜!なんで目覚まし止めちゃったんだ〜……あっ、鳴ってたからか…。」

ボケとツッコミの一人二役を器用にこなし、窮地(?)に立たされていた…。
 


そして、もう一人、全校の噂の的(ターゲット)・渋沢克郎はというと…

「・・・」

優等生なだけに授業に集中しているらしいのだが…

「ミスター渋沢、次の英文を訳して…ミスター渋沢?」

「・・・」

「おい、渋沢…あてられてるぞ。」

クラスメート・三上亮の声も英語の先生の声も届かぬほどの見事な集中力…。

「グレイト、ミスター渋沢。私の授業をそんなに真剣に…あっ涙が…ホロリ。愛、これは愛、あーいけない…所詮は許されぬ恋よ…あー神よー!」

悲痛の叫びとともに世界に入り込む英語教師…ちなみに男、一・九分けの三十六歳、ニックネーム・カマ(オカマ口調だから)→後はご想像にお任せします

「先生…彼は単純に寝てるだけだと思います。」

きっぱりと突っ込む三上。
だが彼の耳には届いていない…。

「私はどうすれば良いのう…私たちは年が離れすぎているワ…しかし愛は年をも越えるものヨぅー!」

(イヤ、問題はそこじゃないだろう…)

三上を初め、クラスメートは思う。

「でも私…知っていたワ…キミの私への視線には何かあると思っていたのヨぅ…」

(いや、何もないって…)

一人、妄想の世界を繰り広げる英語教師に三上とクラスメートたちは心の中であきれはてる。

「私も罪なオカマ。いいえ、心は女。デンジャラスな恋にも憧れるワ 」

(いや、まんま男だしっつーか、マジ消えろよ、カマー )

三上の顔は限界に達していた。
 延々と続くカマーの愛の演説…誰のためのものかも気づかずに一人、幸せそうに寝息を立てる渋沢克郎。

(この状況で寝てられるおまえがうらやましいよ…)

やっぱり渋沢は侮れない奴だと改めて実感する三上亮なのだった…。



渋沢が危ない英語教師のターゲットに決まったころ、藤代誠二はやっと学校へと辿り着いていた…
 ドタバタと階段を掛け上り、怒られるの覚悟で勢いよく教室のドアを開ける。

「スイマセン!反省してます!もう遅れません!えっと、あと何て言えば許してくれます?」

両手を合わせて先手必勝!とばかりに謝ってみる藤代。

「さっさと席につけ、藤代。」

低い声で言われ、内心ハラハラの藤代。重い足どりで席へと向かう

「調子はどうだ?おまえも大変だな、藤代。夕べは寝ないで作戦でもねってたのか?」

席についた藤代に先生は言う。

「ハイ…?」

疑問系で答える藤代。
あまり事態がのみこめていないらしい。

「ごまかすな、藤代ー 先生も期待してるからな、がんばれよー!」

笑顔の下に隠れる無言の圧力。

(尾行が成功する方に賭けたな、先生…)

事情を知る藤代以外のクラスメイトたちは思った。
実は職員室では藤代が尾行に成功するかしないかで賭けられていたのである。

(ちなみに一口・120円)

「ハー…」

わけもわからず苦笑する藤代。
 そして、先生の励ましの言葉をスタートに彼はその後、クラスメイトや廊下で会う先生・生徒・校長先生にまでエールを送られるのであった。

(おまえだけが頼りだ!言うなれば最終兵器・最後の希望だ!渋沢の謎を解いてくれ!)

エールを送る人々のこんな心の声など藤代は知るよしもない。

(…みんなそんなに俺に期待してんのカー…エースストライカーの宿命ってやつかな…いやー、まいったね )

ニカッと笑顔でとんでもない勘違いをおこす藤代。
大方、みんなのエールは今度のサッカーの大会に向けてのものだとでも思っているのだろう。
 エースストライカーとしてサッカー大会での活躍を期待されていると勝手に思い込む大勘違い少年・藤代。 

「フッフッフッ…」

前触れもなく笑い出す藤代。
 そんな彼を観て、ほかの生徒たちは避けて歩いていたことにもきっと気づいてはいないだろう…。

(とうとうイカれたか?藤代の奴…)

たまたま通りかかった三上の心の声である。
 そして、藤代の勘違いはとかれることなく、昼休みへと突入するのであった。



昼休みー
 藤代は図書室へ行こうと廊下を歩いていると、やっぱり図書室へ行こうとしていた三上に会う。

「よう、有名人。期待されてんじゃねーか、良かったな。」

刺々しい口調で先に声を掛けたのは三上からだった。

「らしいっすね やっぱ、エースストライカーの宿命っすかね 」

ニカッと笑顔で自分に酔い知れる藤代…そこはやはるデビル・三上、黙って聞いてるはずがなかった。

「ハッ、ちげーよ。何か勘違いしてねーか。」

「勘違い…?だって今度の大会のことでしょ?」

話がかみ合わず混乱気味の藤代に、三上は容赦なく続ける。

「第一、俺がパスしなきゃおまえの見せ場は皆無に等しいんだよ、バーカ。」

「きっつー…俺が点取らなきゃウチは勝てないんすからね!!俺、天才だし 」

自信過剰な発言…またもニカっと藤代スマイル。今日はデビル三上にも負けてはいない。三上は彼の態度に少々あきれ顔になる。
 そうして丁度、目的地についた。 図書室での用事を済ませ、二人が出て行こうとドアを開けると、それを待ちかまえていたかのように人影が現れた。

「ウワっ!」

急に現れた影に二人は驚く。
 犯人はじーっと二人を観る。

「な、なんだよ、間宮… 」

藤代はまだ驚きから解放されずに聞いた。

(こいつ、普通に出てこれねーのか。)

三上あきれて思う。

「俺のフランソワーズちゃんが行方不明なんだ…しらないか?」

(ギクッ )

二人は間宮の問いにあせりだす。

「し、しらねーよ。」

平静を装って答える三上。

「…怪しい。まさか、俺のフランソワーズちゃんを誘惑してカケオチするつもりだな!」

「それだけは死んでもねーから安心しろ!」

間宮の発言に即答する三上。そして三上は藤代と選手交代。

「ま、間宮。も、もう一度、よ、よく、よく、さ、さささ、探してみろよ…。」

噛み噛みの藤代。顔はきっとひきつっているだろう。

「わかったぞ…二人ともグルだな!そして俺のフランソワーズちゃんを食ったんだろ!」

怒る間宮。

「ヘビって食えんの?」

「えっ、しらなーい。」

「いくらあの二人でも食べないわよ。」

「いや、ニンジン以外なら食いそうだぞ。」

いつのまにやら集まっていたギャラリーが次々と言う。

「ヘビ食うならニンジン食うぞ。」

藤代は叫ぶ。

(どっちにしろ食わないくせに。)

三上は思う。
 そして二人は必死に間宮から逃れる方法を考える。「あーあそこだ!あの木の上!見えますよね、三上先輩!」
いきなり叫び、校庭の木を指さす藤代。

「…本当だ。あそこの木の上にフランソワーズがいる…」

合わせるように言う三上。だが棒読みである。

「俺には見えない…」

不信がる間宮。

「間宮、俺の視力は11、0だ!信じてくれ!」

真顔で言う藤代。それでも信じてない様子の間宮。藤代は最後の手段に出た。

「ああ、俺には見える、見えるんです、先輩…あの木の上でフランソワーズちゃんが泣いているのが…」

力なくいい、わざとらしくヨロめき、藤代は三上の前に倒れ込む。

「し、しっかりしろ、藤代!俺にも聞こえるぞ!フランソワーズが大好きな間宮に助けを求めてる声が!」

藤代の体をしっかりと支え、三上も言う。

「もう…俺はダメです…間宮に信じてもらえなかったことだけが無念です」

「間宮がおまえを信じてないはずねーだろ!」

三上は今にも死に行きそうな藤代に叫ぶ。

「行け、間宮!フランソワーズを助けられるのはおまえだけだ!っつーか、おまえを待ってるんだ!」

三上は間宮に向かって叫ぶ。

「…お、俺のフランソワーズちゃん…今行くぞー!」

そう言いながら間宮は校庭へと走る。

「…骨は拾うぞ、間宮…りっぱに死んでこい…」

その後ろ姿を見送りながら三上は呟く。

「感動だわ。」

「こんな感動は久しぶりだ!」

「三上の後輩を思う気持ちが伝わってきたよ。」

「藤代君、死んじゃダメー!」

二人の芝居に涙するギャラリー。
 そして役者の二人はというと…。

「…行きましたか?先輩…」

「行った。」

自分たちの芝居に乗ってくれた間宮にホッとしていた。

「ハァー。マジであせりましたね。」

「ああ、もうバレてんのかと思ったぜ。」

何やら怪しい談義を始める二人。

「でも時間の問題じゃないっすか?」

「おまえ、言えるか?あの間宮を相手にホントのことなんて…宇宙人と交信するような奴だぞ…」

三上は後半あきれがちに言う。

「…言えないっす 」

撃沈する藤代。

「渋沢が気づかずに思いっきりドアに挟んで即死させて、間宮に気づかれないうちに俺がゴミ箱に隠し、それを知らなかったおまえが焼却炉に捨てた。なんて口が裂けても言うなよ 」

三上はしつこく言い聞かせる。 

「共犯者ってことっすね、俺たち…ラジャーです、先輩…」

自分の命が大事な藤代は承知する。

(素直に謝れよ。)

ギャラリーが思ったのは言うまでもない。
 そしてこの話は終わったように見えたのだが…。

「もう遅いよ。」

二人の背後から不気味な声が聞こえる。
 ゆっくりと後ろを振り向く藤代と三上。

「間、間宮… 」

引き攣り笑顔で声の主の名を呼ぶ藤代。

「フランソワーズちゃんを殺したのか、おまえたち。」

いつにも増して恐ろしい顔で問いただす間宮。

「バッ、元凶は渋沢だ、俺じゃねーよ。」

責任逃れする三上。デビル三上、自分のためなら友をも売る…。

「そうだよ、間宮。証拠隠滅したのは俺たちだけど、殺ったのはキャプテンだ…」

藤代も自分の命が大事らしい。

(こいつら悪魔だ。)

ギャラリーは思う。

「キャプテンは今何処だ?」

間宮は三上に詰めよる。

「多分、職員室だ。」

素直に答える三上。
 間宮はゆっくりと歩き出す。

「待てよ…行くのか?」

三上のといに間宮はただ頷く。

「命を賭ける覚悟か?」

三上はなおも間宮の背中に問う。

「ああ…彼女の敵を取る!止めないでくれ…」

渋くきまっている間宮。

(そこまであんな蛇を愛してたのか)

藤代を初めその場にいたギャラリーは思う。
 そしてシリアスな会話にドキドキしながら二人に注目している。

「そこまで覚悟が決まってるなら止めはしねーよ。むしろ、喜んで適地に放り込んでやるよ。だが一緒に戦った仲間だ、情報提供させてくれ。」

三上の真剣な顔に間宮、藤代、ギャラリーはつばをのみこんで注目する。

「言いたくないが渋沢を職員室に呼んだは…あの英語教師・カマーだ!」

三上はびしっといいのける。
 きっと三人の間には見えない雷がドドーンと落ちたに違いない。
  ホモで有名なカマーを知らない者など渋沢ぐらいである。
 みな、その名を聞いて石のように固まる。

「フランソワーズへの思いもカマーの恐怖には勝てねーみてーだな、間宮。」

三上は静止したままの間宮の肩を叩きながら楽しそうに呟いた。

「わかった…フランソワーズちゃんは…あきらめる」

涙をこらえていう間宮。

「これに懲りてもうペットをかうのあきらめるんだな。」

フランソワーズ事件に一役かっていることも忘れ、三上はさらっと言ってのける。

「ヤダ!」

間宮はきっぱりと即答する。
 三上も藤代もあまりの早さに言葉を失う。

「代わりに、こいつらを飼うことにする。」

間宮はそう言うと、どこからだしたのか、両手に何やら小動物をのせている。

「何、それ?」

藤代は恐る恐る聞く。

「トカゲだ。赤いリボンがオスカル、青いリボンがアンドレ。ちなみに恋人同士だ。」

うれしそうに語る間宮。

「で?そのカップルちゃんをどうするって?」

刺々しく聞き返す三上。

「飼うんだ。」

(こ、懲りてねー )

きっぱり言う間宮に三上がそう思ったのは言うまでもない。
 しばしの沈黙が流れる。すると、景気良い構内放送が流れてきた。

『二年の藤代誠二君、至急、音楽質まで…』

呼び出されたのは藤代だった。

「あっ俺っすね。じゃ、三上先輩、あとヨロシク 」

これはチャンスと言わんばかりに藤代はダッシュして逃げた。

「あっ、待て!藤代…くそー、逃げられた…。」

心底悔しがる三上。
 うれしそうにトカゲーズとじゃれあう間宮。すでに飼う気満々モード。

(何言ってもムダだよな、やっぱ… )

三上は心の中であきれる三上。と、そこへ新たな参加者が登場する。

「あー!いたいた。」

息を切らしながら現れたのは理科担当の教師だった。

「探したんですよ、間宮君。そのトカゲ、隙あらば盗むのやめてくださいよ…。」

理科教師はそういって間宮からトカゲを奪い取る。

(油断も隙もねーな、こいつ。)

三上はあきれる。

「ちがう…おれのオスカルとアンドレだ!」

引き下がらない間宮。

「勝手に名前つけないでくださいよ。あーリボンまでつけてー…実験が終わったら売るんですからやめてくださいよ、ホントに…」

困り果てる教師。

「売るならくれ!じゃなきゃぐれるぞ!ぐれてもいいんだな!」

詰めよる間宮。

(教師をおどすなよ)

三上はひきつる。

「すでに顔がぐれてますよ わかりましたよ。来週来る予定のトカゲの赤ちゃんを一匹あげますよ…」

あきれて言う教師。
 そして間宮はスキップしながら二人の前から消えていく。

(うわー、ごっつうれしそう )

その後ろ姿を観て誰もが思った。

「ハァー…一匹十万のトカゲなのに…でも売れば倍の値がつくしいいか、一匹ぐらい。」

ニコニコとトカゲを抱き、ルンルンしながら呟く理科教師。

(十万が倍で二十万…ほしいかも…)

耳をダンボにしてその言葉をキャッチした三上を初めとするガャラリー…そう考えながらみな、目を光らせるのであった…。



場所はかわって音楽室ー
 呼び出された藤代は静かにドアを開けた。
 前方にはみんなの憧れの的である音楽教師が自慢のブロンドヘアーをなびかせて立っている。その見事な金髪から彼女はジェニー先生と呼ばれていた。(日本人)

「来たわね、藤代君。待ってたわ。」

カマーとは違い美しい女性の笑顔で言う。

「…で、俺、何で呼ばれたんすか?」

「今日は月曜日でしょ?といえば、渋沢君の謎。=藤代君じゃない 」

彼の疑問にジェニーは不明な理論を展開する。

「君が渋沢君のスト…尾行に成功するかしないかで食員室の先生たちで賭けてるのよ。ちなみに私は成功する方に五口 だから成功してくれないと困るのよ。」

その台詞に藤代は朝からのエーるがサッカーのことでなく、尾行に対してのものだということに気やっとづいた。

(一人で勘違いしてたよ、俺…うわー恥い )

内心、落ち込む藤代。

「それでね、私が尾行のレッスンをしてあげるわ 基本は気配を消すことよ!私、得意なの 」

話をすすめるジェニー。

「と、得意って?」

不思議そうに聞き返す藤代。

「実は私…昔ね、ストーカーされてたの…こっちばっか怖がってるの悔しいから逆にし返してやったのよ 最初は平行線の勝負だったけど、最後には勝利を手にしたわ そしたら病みつきになっちゃってー、今の人で四人目 」

サラッというジェニーに対して藤代は恐怖のあまりに言葉を失う。

「ふ…フ…フ…足音に怯える後ろ姿…電話したときの怯える声…恐怖で過精神が敏になってる状態…それを影からみるのが、たまらなく楽しいんじゃー!!ハーハッハッハッハー…!」

悪魔のように叫び始めるジェニー。

(ヒィエ〜…間宮の比じゃない〜 )

心の中で泣き叫んでいる藤代。

「…あらん、やだわ、私ったら…ごめんなさいね 」

自我を取り戻し、かわいこぶるジェニー…藤代にはもう彼女が悪魔の化身にしかみえていないだろう。

「だからー、何が言いたいかって言うとね、もしー失敗しタラー、同じ目に遭わせちゃるつーことじゃ!」

ジェニーの恐ろしさに口をパクパクさせて青ざめれ藤代…すでに逃げ越し態勢である。
 だが二重人格者ジェニー、見逃すはずがない。

「何、逃げようとしとんじゃい!スートーカーされたいんか、我!レッスンしてやる言っとるんじゃ。大人しく受けんか、コラ」



そのころ、ターゲットとなるべく渋沢はというと…。

「いいわ、いいわ、最高よン、克郎ちゃん どの角度からみてもかっこいいワ 斜め右の角度、もうワンショット欲しいワ 」

オカマ教師・カマーによって、バシバシと写真をとられていた。
そんな彼の疑問はただ一つ。

(こんなに俺の写真を撮ってどうするんだろう…)

愛のメモリアルブックになることなど知るよしもなかった。
 

 それぞれの昼休みが終わり授業へ突入…だが藤代と渋沢の姿はなかった…。そして問題の放課後へと時間はあっという間に流れるのであった。
 三上亮が部室へと向かう途中、昼休みからずっと姿を消していた渋沢がフラフラと歩いているのを発見した。

「ど、どうした?渋沢…」

代わり果てた渋沢に驚く三上。

「三上…?俺は、もうダメかもしれない…。」

渋沢は力のない声で答える。

「俺にはどうしてもわからないんだ…大我馬(おおがま・カマーの名字)先生か何を考えてるのか…」

職員室での出来事を思いだしたのか、渋沢の顔は少々青ざめている。

「…安心しろよ。あいつの考えがわかるやつの方がおかしいんだから」

三上はそんなことを真剣に考える渋沢に少しあきれる。

「あの山のように撮った俺の写真をどうするのか、いくら考えてもわからないんだ…」

(そこを気にするおまえがわかんねーよ )

真顔で言う渋沢に三上はますますあきれ顔になる。
そこへ突然叫び声が聞こえる。

「克郎ちゃーん 」

(ゲッこの声)

三上と渋沢は背筋が凍る。
 二人の間に割って入ってきたのはカマーだった。

「何か用っすか?」

生気のない渋沢に変わって三上が聞く。

「あんたじゃないわ、邪魔よ 克郎ちゃん、私ったら大事な写真を忘れてたワ…私とあなたのツー・ショッ・ト 」

ウインクと投げキッスつきで呟くカマー。

(克郎ちゃんって…こいつ、マジだ。)

ひきつる三上。その隣ではカマーの攻撃をまともにくらった渋沢が即死している。

 「…ハァ〜。先生…こいつは忙しいんで解放してやってください。」

いかにも仕方ないという感じで代弁する三上。

 「私と彼の仲を邪魔しないでよ!ハッもしかしてあんたも私の克郎ちゃんのこと…」

大勘違いカマー。

「一緒にすんなよ…つーか、お前じゃなえーし…」

三上は呆れて言うが、妄想の世界へ入り込むカマーには、聞こえるはずはなかった。

「負けないわ…負けないわよ!!奪い返してやるわ!!」

1人、火花を散らすカマー…涙を流して、走り去って行く。

(いや…貰っても仕方ね〜し…あっ、彼奴内股だ…)

心の中で突っ込む三上。
そして、溜息をつきながら、意識不明の渋沢を見る。

「しょうがね〜な、保健室に運ぶか…」

いかにも面倒くさそうに、呟きながら、渋沢を引きずる。

(お前を間宮に売った、借りもあるしな…まっ、これでチャラになるか)

そう思いながら、三上は満足そうに笑うのであった。
だが、カマーの勘違いからこの後、渋沢を巡る大バトルが始まることなど、この時彼らは、まだしらずにいるのであった。



ーそして最後に…ー
3:51。
藤代誠二は、やっとストカー…もとい、尾行のレッスンから解放された。

「俺…生きてるよ…」

音楽室から出た彼の第一声…涙を流しながら、喜ぶ藤代。

「…よう、バカ代」

渋沢を保健室へ、送り届けた三上が、気が付いて声をかけた。

「あっ、三上センパイ…聞いて下さいよ〜」

今、体験した恐怖のレッスンを聞いて貰おうと、涙を流しながら三上にしがみつく、藤代。

「離れろ!邪魔だ!あっそうだ、藤代」

「何スカ?」

「渋沢はカマーの愛の洗礼を受けて、重体だから、今日の尾行は無理だと思うぞ!」

藤代の地獄のレッスンのことなど、知らない三上は、サラッと言う。

「何でですか?俺の苦労は…?今までずっと、ジェニー先生のストーカーのレッスン、させられていたんスよ〜!」

泣きながら訴える、藤代。

「はぁ?ストーカー?何それ?お前の苦労なんざ俺に言われても、知るかよ。部活行くぞ」

デビル三上あっさり、見捨てる。
大方、間宮の一件で、さっさと逃げたのを根に持ってるに、違いない。
魂の抜けていく藤代。
彼が、その後生還できたか謎である。

こうして、藤代の地獄のレッスンは水の泡となり、今回もまた渋沢の尾行は失敗に終わるのであった。
ジェームズボンドへの道は、長く険しい。


END


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