【レトロでゴー!】






お店を開くとき…必要なモノを上げたなら、【お金/土地/人材…】まぁその他色々必要だろうけれど…。

お店という個体を運営するに当たって必要なモノは、連絡手段。そうなると…連絡するのに必要なのは、やはり電話回線だろう。



これは、不破医院が開設される少し前のちょっとした出来事である。








麗らかな昼下がり。
お馴染みの不破医院…と言ってもまだ開設されていないので、不破医院になる予定場所に、これまたお馴染みのメンバー水野に風祭に我らが不破先生がくつろぎの一時を満喫していた。

ちなみにレギュラー化しているシゲが居ないのは、まだ来ていないというだけでけして病欠では無いので心配しないで欲しい。


ともあれお馴染みの面子で、テーブルの上に置かれた茶菓子などを食べながら、本日は膨大なパンフレットを眺める面々。

其処にはフルカラーで映る、電話機の写真がデカデカと写されている。
そう…彼等は不破医院の電話機選びに勤しんでいるのである。


静かな室内に紙が擦れ合う音が響く中、黙ってパンフレットを眺めていた水野が不意に不破に疑問を投げかけた。


「そう言えば不破。電話機のパンフレットは沢山あるが…目星はついているのか?」


パンフレットから一旦視線を不破に移した水野はそう言う。
不破も水野同様パンフレットから視線を上げ、自分の見ているパンフレットを水野の方に向けながら応えるように口を開く。


「ナンバーディスプレイ対応だ。無論FAXも使えるものなのだ。便利だろう」


パンフレット片手に不破は言う。
その不破の言葉に、共にパンフレットを覗いていた風祭も興奮気味に頬を紅潮させながら不破に言葉を返した。


「わぁー。凄いね不破君。だってコノ最新型の電話だよね〜」


子供の様にはしゃぎながら言う風祭の指は、先程まで見ていたページを示している。
不破は「ああ。其れだ」と頷きながら返事を返す。
不破と風祭の相変わらずのやり取りに水野は、少し苦笑を浮かべながら黙って眺めていた。


(まぁ〜何時ものやり取りってヤツだな。それに不破がアナログな電話を使うとは想像もつかないし…こんなモン何だろう)


などと…水野ははしゃぐ風祭と応えている不破に対して内心思ったのだった。


「じゃー後は、その電話を何処で購入するかを考えるだけって所だな」


目頭を少し解しながら、水野は持っていたパンフレットを置き…テーブルの上に山積みになった電気屋さんのチラシを手に取りそんな言葉を口にする。
水野の言葉に、不破と風祭は小さく頷き…水野に習うようにチラシに手を伸ばしたのだった。





話もまとまり、最新型の電話を購入すると決まった時だった。
今まで不在だったシゲが急に現れ声を出した。


「どないしたんポチ?えらく楽しそうやないか」


風祭の肩口にヌッと顔を出しながら、シゲは開口一番にそんな言葉を口にした。
突然現れたシゲに、風祭は少し驚いてはいたが…すぐに笑顔でシゲに言葉を返す。


「あっ。シゲさん今日和」


ニッコリ笑って挨拶する風祭にシゲも笑顔を返しながら口を開く。


「はいはい。今日和。ポチは今日も元気やな〜。んで…何面白い事あったん?」


風祭の頭をクシャリと軽く撫でながらシゲは相変わらずのんりびりとした口調で言葉を紡ぐ。
風祭は少しぼんやりとしながら、シゲに返す言葉を紡ぐべく口を動かした。
その様子を見ていた水野と不破は、取りあえず風祭にシゲの相手を任せる事にした。



風祭が簡単にシゲに説明してるころ、水野と不破は最新型の電話機が何処が一番安いかチラシを見比べている。


「なぁ不破…。やっぱり此処が一番安いんじゃ無いのか?」


水野は自分が持っているチラシを示して不破に言うが、不破は何やら顔を顰めて水野に応える。


「確かに安いが…其処ではポイント還元率が低い。持っているポイントの事も考えるのなら、けして格安とは思えないのだ」


「じゃーやっぱり。何時もの所が無難って所か?」


「やはりそうなるだろうな」


水野の言葉に、不破はやっぱり眉間に皺を寄せてチラシとポイントカードの間で揺れる不破先生だった。





そんな真剣な二人を余所に、シゲは風祭の話を聞き終え呆れ気味に言葉を紡ぐ。


「何や結局、電話機で悩んでいたん?」


「悩んでいたと言うより、どれが良いか見て楽しんでいたんですけどね」


シゲの言葉をさり気なく訂正しながら、風祭は言う。


「日本人の心忘れたアカン。つーワケで黒電話を不破先生にプレゼントや」


ご満悦気味にシゲは何処から取り出したか不明の…今ではお目にかかることが少ない黒電話(ダイヤル式)を不破の前にズイと出した。
勿論シゲの突然の行動に流石の不破も水野も困惑気味に、出されて黒電話を眺める。


しばし黒電話の登場によって固まっていた水野は、不破より先にシゲに対して言葉を発する。


「今時黒電話って無いだろ…せめて子機とファックスぐらいは必要じゃないのか?」


「これだから今時子のタツボン甘いんや。現代はな、せこせこ急ぎすぎやろ?だからこそ、ゆったりと時間を生み出す意味でもやな…レトロな黒電話ちゅ−わけや。第一馬鹿高い値段出して電話買う何て無駄使いや…そのお金は別のことにでも回せるんやし…問題あらへんやん」


キッパリ言い切るシゲの持論に、妥協案を口にしていた水野も開いた口がふさがらず呆然とするばかり。
それは不破も風祭も同様で、唖然とシゲと黒電話を見るしかなかった。

そして…文句を言われる前にさっさとシゲは、黒電話を繋げるのだった。




後に言い出したシゲが、あまりの黒電話の不便さに…不破に電話機を変えるように訴えるのは…もう少し先の話になるのは言うまでも無いであろう。



兎にも角にも、不破医院には平成に似合わない少しレトロな黒電話になったのである。



おわし



                        2004.6.28. From:Koumi Sunohara




★後書き+言い訳★
久しぶりの不破先生の更新です。
とっても短い話しなんですけど(汗)
ちなみにお気づきと思いますが…「梅雨と…」で出てくる黒電話になった理由の話しです。
あまりオチも無いような話ですが、少しでも楽しんで貰えたなら幸いかなぁ〜何て思っています。
此処までおつき合い頂き有り難う御座いました。


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