| −車椅子− |
此処は毎度お馴染み、不破医院である。
ブラックジャックも真っ青なお医者様…クラッシャー不破の副業の場。
その問題の男、不破は珍しい休日の午前を、こらまた珍しいテレビ鑑賞としゃれこみつつ…
片手に医療器材のパンフレットが握られてはいたが…。
別に何を見るとも決めていない不破は、何気なくテレビのコマーシャルに目を向けていた。
それは、何の変哲も無い何処かで見覚えの有りそうな某損保会社のコマーシャルで…。
『このコマーシャルに出逢ったのも…不意の出来事です。そして事故も又、不意の出来事で…事故は何時起きるかも分からない。だからコレを機に保険に入りませんか?』
などという内容のコマーシャルだった。
まぁ損保会社の有り触れた内容のモノだったのだが、不破は何故か興味深そうにソレを眺めていた。
(確かに…不意の事故などで…怪我や病気は避けられないものだな)
コマーシャル相手に、“うんうん”納得気味に頷く不破。
(そう言えば、渋沢と言い…風祭と言い…足を怪我するものも多い。まぁサッカーをするのだから…足を怪我するのは常識だが…。彼奴等は保険にしっかり入っているのだろうか?)
不意に浮かぶ、どうでも良い疑問。
そんな疑問が一つ出れば…後はところてん式にどんどんと流れでる。
仕舞いには、便利な医療器具が無いのは何故かと言う所まで…。
彼の孝作は膨らんでいった。
そして…。
(無ければ…作れば良いでは無いか)
何やらそんな結論づけて、ポンと手を打つ不破。
医療関係のパンフレットと損保会社のコマーシャル…。
その二点で何を思いついたのか…皆目見当も付かないが…。
不破は、忙しそうに動き始めた。
そして手始めに…病院の玄関のドアに「本日訳ありの為休診」とマジックペンで一発書きをしたプレートを下げた。
勿論、扉という扉の鍵を閉めるのも忘れずに…。
不破が病院を休診告知を示してから、数時間後のコト。
不破医院に入り浸る習慣としている…藤村茂樹コト…シゲは意気揚々と、何時もの様にドアのぶに手をかけた。
勿論、ドアにかけられているプーレートの存在などまったく気に留めずに。
ガチャガチャとこう五月蠅い音を発てるが、扉は一向に開く気配が見られない。
(あれ?おかしいわ…普段は開くんやけど…。今日は居るはずやと思うとったんやけど…)
ドアのぶに手をかけたままシゲは“あれ?”と小首をかしげる。
そして目線をドアに向けたなら、デカデカと書かれた「休み」と言うプレート。
他の裏口なども、ドアノブを回して見るものの…結果は一緒で…しっかりと鍵がかかっていた。
こんな出来事は、シゲの中で初めての出来事で…。
不破の身に何か有ったのかと?少しだけ不安が過ぎった。
が…すぐに、違うと考えたシゲは別の所に意識を向けた。
(取りあえず一人で居るのもなんやしな…タツボンとポチにでも電話でもして呼ぼか)
名案だといわんばかりに、シゲは近場の公衆電話に向かって歩き出したのだった。
シゲに呼び出された、風祭と水野は…不破医院に寄りかかるシゲを見つけて駆け寄った。
水野、風祭の二人と合流したシゲは、問題のお休みプレートがかかったドアの前にたたずんでいた。
「本当だぁ。珍しいね、不破くんが急に休む何て」
プレートをまじまじ見て、風祭は珍しいものを見る様にそう言う。
「また、怪しい研究でもしてるんじゃ無いか」
風祭の言葉に水野がすかさず言葉を紡ぐ。
水野の冷静な言葉にシゲは茶かすような口調で「いや〜タツボンも言うようになったなぁ〜」とチシャ猫がする様な笑いを浮かべてそう言った。
もちろん水野は言われた瞬間には、シゲに突っ込みを入れた。
そんなこんな談笑を交えつつ、一同は不破医院の扉が開かれるのを待ったのだった。
軋む扉の音が聞こえると、閉ざされていた不破医院の扉がゆっくりと開かれた。
開かれた不破医院の扉の隙間から、不破がニュっと覗かせた。
「ついに完成した」
満足そうに呟かれる不破の言葉は主語のみで…理解に苦しい言葉だった。
その言葉に、シゲを始め水野、風祭は唖然とした表情で不破を見た。
(何が完成なんだろう?)
不意に浮かぶ一同は疑問を抱きつつ、不思議なものを見るような目線で不破を見た。
不破はそんな目線を気にした様子は無く、実に満足そうな表情を浮かべてる。
そんな相変わらずの我が道を歩む不破に慣れきっているシゲがおもむろに、言葉を紡いだ。
「何が完成したんか、分からへんけど・・・立ち話も何やし、取りあえず、中入れてくれへん?ず〜っと、閉め出しくらってん。茶の一杯ぐらい出してもらえんと・・・割りにあわへんやろ?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、シゲは言う。
そんなシゲの言葉に不破は呆れ顔で見ると言葉を紡ぐ。
「お前が勝手にやって来るから、入れないのだろう」
さも当然に不破は言う。まったくもって正論である。
シゲは不破の言葉に苦笑を浮かべながら「まぁまぁ。俺と不破先生との間やないの」とおどけてみせた。
水野と風祭はそんな二人のやりとりに、置いていかれながら呆然と両者を見た。
そして、小声で水野と風祭は話し始めた。
茅の外組で・・・。
「ねぇ・・・水野くん。僕らの存在忘れられてない?」
「不破も不破だが。シゲも我が道タイプだからな。恐らく、忘れられてるだろうな」
どちらともつかず溜め息を吐きながら、水野と風祭は不破とシゲを眺めた。
すると・・・。
「ポチ何ボーッとしてん。タツボンお前もや!つったく、中入ってええって承諾貰ってんのや。早く入り」
などとシゲにせかされた。
二人は、シゲの作り出す流れについて行けず、呆然としながらも、取りあえず勧められるように不破医院の中に足を踏み入れる事にしたのだった。
余談で有るが、どうやら茅の外組が話し込んでいる間に、ゴーイングマイウェー組コト不破/シゲ組も何やら決着が着いていたようである。
ドタバタしながら何とか院内に入った一同は、シゲたっての希望により…取りあえずお茶を頂くことになった。
御陰で室内はほのかに、お茶の芳しい香りが漂っている。
「で…何が完成したんだ?」
不破に出されたお茶を啜りながら、水野は徐に不破にそう尋ねた。
尋ねれれた不破は、ケロリとした表情で水野に言葉を返す。
「言って無かったか?」
「「言ってない」」
即時に返す一同。
「そうだったか…。そう言えば言っていなかったかもしれん」
腕を組み思考を巡らせた不破はそう返すと、すかさずシゲがツッコミを入れる。
「と言うか…どういった経緯でココが閉まっとった事も説明されてへんよ」
シゲの言葉に、風祭と水野は首を縦に振り賛同した。
「閉まっていた訳か?」
「そうや、何も聞いてへんもん」
「理由は、ちょっと電動車椅子を制作していただけだ。そうだ折角だしココに持ってくるとしよう」
そう言い残すと不破は徐に、奥の部屋に消えていった。
説明になりそうでならない説明を聞いた一同は、苦笑を浮かべ(流石不破(君/先生)…説明も自己完結型だ…何時も事だけど)と思いつつながら取りあえず不破が戻ってくるのをお茶を飲みながら待つことにしたのだった。
少し重そうな、物体を押しながら…不破は部屋に戻ってきた。
その異様な物体に最初に気が付いた風祭が、嫌な汗を背中に感じながら言葉を紡いだ。
「ふ…不破君…それは?」
何やら嫌な予感をしながらも、風祭はその言葉を不破に投げかける。
「ああ。先程完成したばかりの車椅子だ。見たまんまだがな」
不破は風祭が尋ねた問いに答えながら、問題の物体…自称車椅子を指でさす。
示されたソレは…どうみても少し車椅子と異なる…ある種のメカの様な物体で…。
見たまんまとは…言えない微妙な車椅子だった。
「そう…車椅子何だ…。でもどうして、車椅子何て」
意味が分からないと言いたげに呟かれる風祭の声に不破は、説明すべく言葉を紡いだ。
勿論、作り出す要因となった…損保会社のコマーシャルの話しも交えつつ。
「と言う訳でな。俺は足を怪我しやすい風祭や渋沢にも使って貰えるような…凄まじく便利な車椅子を作ろうと思ってコレを制作するに至ったのだ」
不破が自分の事を考えてくれて、妖しい物体を作った…と言う事に、風祭は少しだけ感動した。
だがソレと同時に過ぎる不安。
それは…矢張りというか…妖しいホルム。
「それは分かったし…有り難いことだけど…。どの辺が便利なのかな?不思議な形だよねコレ」
やんわりとした口調で風祭が言えば、その言葉を待っていたといわんばかりに不破の目がキラリと光った。
風祭は、自分がもしや迂闊な事を言ったのか?と思いつつも不破の言葉を黙って待った。
「流石風祭だ。目の付け所が違う。これが通常の車椅子と違うのは自動操縦且つカーナビ付の…不破式自動車椅子(仮)だ」
((不破式…自動車椅子…かなり妖しい…))
益々不安を大きくした風祭が、多分無理だと思いながら…不破に考え直す様に言った。
が…案の定不破は、「安心しろ、完璧の出来だ」と言いながら…自動車椅子の…かなり妖しいボタンをカチリと押した。
すると…お約束の事態が…。
グギギギギーという奇っ怪な音と共に激しい振動を伴い…凄い音を発てて爆発した
乗り物もとい…車椅子の様なモノ。
不破の隣に居たシゲは何時除けたのか…ちゃっかり、お茶請けと湯飲みを持って早々と避難していた。
少し離れた位置にいた水野と風祭は勿論無事なのだけど…。
丸焦げなのは不破ばかり…。
「大丈夫?かなり焦げてるけど…」
丸焦げの不破に風祭は怖ず怖ずと尋ねた。
「問題無いぞ。馴れてるからな」
事も無げに不破は言う。
おまけに“それにしても爆発するとは、計算外だったな…次回はもう少し改良が必要だな”とブツブツ言いながら、爆発原因を見つめる不破。
シゲは「研究熱心やなぁ〜」と面白そうに不破の行動を見ていた。
「お前今ので懲りてないのかよ」
そんな水野の呆れた言葉に、不破は不敵に笑った。
「失敗は成功の元と言うであろう。誰しも失敗して一回りも大きくなるモノだ…昔の有名な科学者もそうだったように…」
などとサラリと言い切る。
それに対して水野は思い溜息を吐き、シゲは他人事のように「頑張れや〜」と呑気な言葉。
風祭はと言うと…。
(片付け大変だなぁ〜)
などと風祭は煤まみれの室内で、現実的なコトを考えていたのであった。
兎も角今日も不破医院は、何はともあれ平和に一日が過ぎていった。
懲りない不破先生と共に…。
今回の発明は失敗に終ったが…。
不破先生の新たなる挑戦はまだまだ始まったばかりである。
目指すは無敵のサイエンスDrの道は始まったばかりなのだから…。
END
2004.3.30. From:Koumi Sunohara
★言い訳?後書き?★
不破先生シリーズです。
しかも久しぶりに笛の駄文を書いたので…微妙にキャラ可笑しいですね。
精進せねばなりませんね。
今後の方向性は…マットサイエンティスト風味かな?
どうなるか未定ですが、また書ければ良いかなぁ〜と思ってます。