何時ものように俺達は、デジモンワールドに来ている。
少し違うと言えば、太一さんもここに来ていると言うことぐらいだろう。
だからだろうか、今日のヒカリちゃんは気嫌良くて、楽しそうに笑っている。
俺は、しみじみと自分の世界に浸っていると…。
「大輔!!何〜しみじみしてんだよ〜!」
ベシ。言葉と共に太一先輩のツッコミが俺の脳天に炸裂、思わずその場によろめく。
「大輔しっかりしろよ〜」
ブイモンは倒れそうな俺を、必死に止めてくれた。
(こいつて、結構力持ち何だよな〜)
「ゴメンゴメン、いや〜何だか今日も平和だな〜と思って」
そう言うと、「平和平和v」「だな」「そうね」と言葉が返ってくる。
それだけで俺は、何だか嬉しくなる。
周りの友達に、「八神教」だの「八神病」て言われるぐらい、2人を尊敬しているからだろう。
(崇拝のほうが、しっくりしてるかな?)
和みながら俺達3人と2匹はデジタルワールドを散策していた。
ピピピピピ。
ポケットから激しい音が響きわたる。
「大輔!メールきてるよ」
ブイモンが俺にDターミナルを差し出す。確かにメールが届いている。
「なぁ、なぁ。大輔何て書いてるんだ?誰からだ?」
興味心身にブイモンが俺に尋ねてくる。
俺はDターミナルのメールマークをクリックしながら、「うーんと」と唸りながらメールを確認することにした。
メールには『Dear大輔君 おそらくヒカリさんと一緒だと思ったので貴方宛で送らせてもらいました、ちょとヒカリさんに用事が有るので、そちらに向かいます From光子郎』と書いてある。
それを俺が読み上げると、心成しかヒカリちゃんの笑顔が増したように見えた。
「大輔君、お兄ちゃん行きましょうv」
「うん」
俺は軽く返事を返す。
(光子郎さんが来るのが、よぽど嬉しいだなーヒカリちゃん)
ふとそんなことを思ったけど、何故かタケルの時に感じた苛々が見あたらなく、逆にヒカリちゃんの幸せを心から嬉しく思える。
そんな風に思える自分の感情にも、心地よさを感じていた。
(何だろう凄く俺も嬉しくなるんだから仕方がないよな。ヒカリちゃんの笑顔が一番)
そう何だか納得できる何かがあり、足取り軽やかに俺は、ヒカリちゃんと太一さんの後を追い、皆の元に向かったのだった。
少し遅れて着いた俺は、ヒカリちゃんに声をかけた。
「ヒカリちゃん〜、光子郎さんは?」
返事が無い。
「ヒカリちゃん?」
俺は不思議になって、周囲を見渡した。
(うん?何か何時もと違う空気が流れてる気が…)
違和感を感じ、顔をしかめる。
「大輔君どうしたの、変な顔してさ?」
顔をしかめたままの俺を、楽しげにタケルがのぞき込んだ。
「何だか、場の雰囲気が良いのやら、悪いのや複雑な感じがしてさ」
「へー、良く解ったね大輔君」
タケルはニコニコと笑いながら、「ああ、それはね」と指を指す。
指の先に居たのは、先程まで上機嫌だったはずのヒカリちゃん。
「えっ…、先まで機嫌良かったのに…」
俺は、いまいち良く解らず、タケルに疑問の目を投げかけた。
「せっかちだなー大輔君は、”あれ”を見ていれば解るはずだよ」
(あれ?だと…)
その直後だった、耳が壊れるんじゃないか?て言うぐらいの高い声が耳に入り、顔をしかめた。
「泉先輩〜、泉先輩〜vvこのプログラムなんですけど…」
「京さん光子郎さんだって、忙しいですよ!それより光子郎さん、お腹へてませんか?」
そこには、光子郎さんを両脇で占領している、京と伊織の姿が目に入る。
ちなみに、光子郎さんはとてつもなく困った顔をしていた。
(あれじゃー、ヒカリちゃんの所に光子郎さん行けないじゃないか…)
俺は、タケルをかえりみると、タケルは、満面な笑顔を向けてきた。
「何で、光子郎さんを助けないんだよ!!」
「だって、面白いじゃない?」
タケルは飄々と答えた。
「それにさ〜、大輔君にとって光子郎さん邪魔だしね。助けない方が断然良いでしょ」
「はぁ〜?」
「だって、ヒカリちゃんが好きなんでしょ?」
「お前何か、変だぞ?」
「僕は何時もと変わらないよ。僕にしてみたら、大輔君の方が変だよ。ヒカリちゃんが好きなら、光子朗さんは邪魔でしょ。大輔君にとってはその方が良いのに、何で光子朗さんを助けるのかな?どっちの味方するなら、僕は君の味方になると決めたから、助けないだけだよ」
正直にタケルの言葉がちっとも良く分からなかった。
(俺の為?何でそうなるんだよ。変だろ?ヒカリちゃん悲しそうなのに平気なのかよコイツ?)
俺は訝しげに、タケルを見る。
「とりあえず、俺お前を見損なった」
吐き捨てるように呟き俺はタケルの間を抜けて走る。
「ブイモン行くぞ」
「待ってよ〜、大輔〜」
走り抜ける時に見たタケルの顔は少し悲しげに見えたのは気の所為だったのだろうか?少しの罪悪感と光子朗さんを助けないあいつへの怒りでグチャグチャになりながら、やっぱり何だかんだ、タケルの言葉が不意に掠める。
「僕は何時もと変わらないよ。僕にしてみたら、大輔君の方が変だよ。ヒカリちゃんが好きなら、光子朗さんは邪魔でしょ。大輔君にとってはその方が良いのに、何で光子朗さんを助けるのかな?どっちの味方するなら、僕は君の味方になると決めたから、助けないだけだよ」
それはもしかすると間違いなくタケルが正しいのかもしれない。
ヒカリちゃんが好き。
これは俺の中で揺るがない事実。
俺はヒカリちゃんが好きだ。
でも、ヒカリちゃんと恋人になりたいとかじゃなく、純粋にヒカリちゃんが好きなのだ。
本当なら自分の手でヒカリちゃんを笑顔にしたいし、そういった存在でいれたらと思う。
でも現実は違うことぐらい俺だって分かっている。
ヒカリちゃんが好きで、ヒカリちゃんを見ていいたからだ。
彼女の視線が何処にあるのか…鈍いって言われる俺だって気が付いてる。
太一先輩と居るヒカリちゃんの笑顔。
あの人と居るときに嬉しそうに、照れくさそうにしているヒカリちゃんの笑顔。
(ああ…そうか。それら全てのヒカリちゃんが俺は好きなんだ。)
妙に納得している自分が居て、やっぱり俺は周りの人間が言う様に八神病にかかっている訳で、それで良いと思っている。
(だったらやっぱり、そんな笑ったヒカリちゃんの為にも光子郎さんを助けないとだな)
ライドラモンに進化させたブイモンと共に俺は、光子郎さんを救うべく行動を起こそうとしていた。
(どうやって…あの中から光子郎さんをヒカリちゃんの所に連れて行ったら良いんだよ〜)
うーんと唸りながら迷っていると、光子郎さんのパートナーのテントモンが京子と伊織にプチサンダーを当てたのか、京子と伊織の悲鳴が上がった。
「「ウゲー」」
蛙の潰れたような声に、俺とライドラモンは一先ず光子郎さんの元に一目散に向かった。
(よし。今がチャンスだぜ)
腹の底に力を入れて、俺は手を差し出しながら言葉を紡ぎだした。
「光子郎さん、早く乗ってください!!」
光子郎さんは目を瞬かせながら、俺を見て少しホッとした表情になった。
「大輔君!それにライドラモン!!」
そんな、光子郎さんの様子に少し嬉しくなりながらも俺は急かす言葉を口にした。
「早く!」
俺に促されるまま光子朗さんはライドラモンに飛び乗った。
(良かった。テントモンのお陰で光子郎さんをヒカリちゃんの所に送り届けられる)
無事にライドラモンに光子朗さんを乗せた俺は、先程のタケル態度に腹を立てていた。
「タケルの奴〜、光子郎さんを助けないいなんて!許せね〜!!」
「まーまー、彼も色々虫の居所が悪かったんですよ」
穏やかにそう言う光子朗さんは少ししか年齢が違わないのに、大人に感じた。俺にはそうやって、タケルの事を許せそうには無い。
けれども、当事者の光子朗さんがそう言うのであれば俺はやっぱり引くしかない…優先順位はあくまでヒカリちゃんの幸せだから。
「そうですかね〜、ヒカリちゃんはあそこに居ますから」
俺は満面の笑顔で光子郎を送り出した。
「有難う御座います」
光子郎さんは一礼すると足早にヒカリちゃんの所に向かった。
しばらくその様子を眺めていた俺に、先程まで不機嫌そうだったタケルがペガスモンに跨ってやって来ていた。
「結局助けたんだね」
「ああ」
「これでヒカリちゃんはハッピーエンド、大輔君は失恋決定だよ。本当にお人よしだよ大輔君」
呆れた様にそう紡ぐタケルに俺は、笑顔ですぐに返答した。
「別に良いさ。俺が好きなヒカリちゃんは、太一先輩が好きで…光子郎さんの事が好きでキラキラ輝いているヒカリちゃん。だから、ヒカリちゃんが幸せなら俺はそれで良いいんだ」
「ふーん。まぁ大輔君がそれで良いなら僕はそれで良いと思う。それに今の大輔君の言葉は共感できるからね」
結局タケルが何に対して不機嫌だたったのか俺には分からないまま、気づけば何時もタケルが其処に居た。
俺達(?)はヒカリちゃんと光子郎さんが上手くいけば良いと思いながら…と言うかヒカリちゃんが幸せになれれば良いなぁなんて思いながら、京子と伊織の居る場所に戻った。
後から戻って来たヒカリちゃんが嬉しそうだったのが何より俺も嬉しかった。
おわし
2011.9.4 From:Koumi Sunohara
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