Cambric tea |
ここ2〜3日の太一の様子は、他人の目から見ても調子が悪そうに見えた。
妹のヒカリと、パートナーデジモンであるテールモンも、この尋常ではない、太一の腑抜けぷりに、頭を悩ませていた。
ヒカリは、特に“極度のブラコン”と言われるほど兄を慕っている。
テールモンも又、パートナーのヒカリを常に気にかけているし、太一の事も慕っている。
そんな、大好きな太一が腑抜けになって2〜3日。
『何かあったのでは?』と心配するのは、当然の摂理と言えるだろう。
この2人は、何度か「元気ないけど…どうしたの?」と太一に尋ねている。
その度に、太一は辛そうに笑って、ヒカリとテールモンの頭を撫でる。
「大丈夫、心配するな」と、答えるだけ。
(心配するな、と言われたって、そんな顔してたら…心配すると思うのだが…)
(お兄ちゃんの、その言葉こそ当てにならない事は、無いのに…)
だから今日こそは、理由を聞くぞ!と意気込む2人。
「やぱり、調子悪いけど…どうしたの?」
「そんな事ないよ、元気だって」
返ってくるのは、おきまりの言葉。
でも、今日の2人は、引き下がらない。
さすがに、その様子に苦笑する太一。
すかさず、テールモンが尋ねる。
「空と、喧嘩したのか?」
凍り付く太一。
((図星!?))
「う〜ん、怒らすようなことしてないと思うけどな〜」
太一が、長い沈黙の後そう答えた。
そして、太一は掻い摘んで、2〜3日めの話をし始めた。
2〜3日前。
久しぶりの休みに、遊びに行った太一と空は、2人の時間を楽しんでいた。
その内、デジタルワールドの話や、ヒカリの話を太一がし始めた頃から、空は話を聞くのも、上の空。
それに、太一が文句を言ったら、益々機嫌が悪くなった。
そして、現在に至る。
「やっぱり、俺がわるいのかな〜?」
頼りなさげに、太一はヒカリに尋ねる。
ヒカリは、「そんなことないよ」と答える。
2〜3日前の話を、聞いた2人は聞こえない程度の、溜息をついた。
「ねー、それって空さんが、私達に焼き餅妬いてるてことだよね?」
小声で、尋ねるヒカリにテールモンは頷く。
「じゃー、しかたがないね」
少し、嬉そうに、それでいて、ウンザリしながらテールモンと顔を見合わせる。
「大丈夫だよお兄ちゃん、すぐ仲直りできるよ」
ヒカリは、とびきりの笑顔をで答える。
そして、太一にそっとアドバイスをした。
太一は、ミルミル元気を取り戻し自分の部屋に入って行く。
その様を、苦笑気味に見つめるヒカリ。
(しかたがないけど、仲直りしてもらうしか無いみたいね〜)
ヒカリは、溜息を押し殺して、電話に手に持った。
「もしもし、光子朗さん?頼みがあるんですけど…」
あれから、数日たった。
ヒカリと、光子朗のはからいにより、空は八神家のリビングに居る。
“はからい”と言えば、聞こえが良いが。
実際のところ、この2人の暗躍により今の状態にいたっている。
空が来て、30分。
会話の一つもなく、ただ黙って向かい会っている。
またっくもて、嫌な空気がリビング中に漂っている。
沈黙に耐えられなくなり、重い口を開いたのは太一。
「お前さ、この頃調子良くないだって?」
太一が、やっとの思いで出したのが、その言葉だった。
「た…太一より、調子良いと思うけど…」
また、嫌な空気が、2人の間に訪れる。
「あ…えっと、この間は…悪かった…」
づーと、言いたかった言葉はを、紡ぎ出す太一。
「…」
沈黙で返す空。
ふーっ。
空が、重い溜息を一つつく。
「その事は…もう良いの。…太一、私が怒っている理由…やっぱり、分かってないみたいだから…」
「わ、悪い…」
そして、本日何度目かの沈黙が、訪れる。
「あっ…あのさ〜」
沈黙に耐えれれねかったのは、やはり太一。
「喉、乾かないね〜?…飲み物、もってくるわ!」
空の返事も待たずに、太一は台所へ、向かった。
空は、黙って太一を見つめる。
しばらくした頃。
台所の方から、柔らかな香りが漂ってきた。
(何か、落ち着く香りがする…)
太一が、消えた台所を見ながら空は、ふとそんなことを思った。
「またせたな」
少しすまなそうな太一が、空に一言呟いた。
コト。
テーブルの上に、今作られたばかりであろう飲み物が、空の前に置かれた。
その飲み物は、少し不思議な印象を与えていた。
上の方が白く、下の方がやや黒みがががっている。
むしろ、黒褐色と言ったほうが、しっくりくる。
(…飲み物?)
空は、少し困惑気味に、太一と、飲み物を見比べた。
「た…太一…、これって?」
手にその飲み物持ち、太一に問う。
太一は、ニッコリ笑うだけ。
答えてくれる気配は、無さそうである。
(香り的には、紅茶…きっと大丈夫よ空!!太一が作ってくれたんじゃない!)
意を決して空は、黒い液を口に含む。
「…?」
(あれ?以外に“これ”…)
「どうだ?美味しいだろ?」
太一の問いに、空は軽く頷。
そして、手に持っているコップを不思議そうに眺める。
「“この飲み物”《キャンブリックティー》のアイスティーなんだ、見た目変だけど、美味しいだろう?」
さらに、不思議そうな目を太一に向ける空。
(スポーツドリンクと炭酸飲料ぐらいしか飲まない太一が…)
「でも…太一、あんまり紅茶に詳しくなかったよね?」
「…調べたんだよ」
照れているのか、何時もより声が小さい。
「空が紅茶好きって言ってたし、それで元気が出る飲み方探して、作っただよ」
「私のため?」
「そうだよ」
「本当に本当?」
「ああ本当だ!!」
「凄い嬉しいよ、太一vv」
づーっと、太一が見たかった笑顔。
そして、どうしても聞きたかった言葉を聞き益々照れる。
「まーぁ、それより“それ”牛乳とハチミツだからリラックスできるし、肌にも良いだってさ…」
太一は、顔を赤くさせながら空の方を見る。
「もしかして、凄く心配してくれたの?」
「あなり前だろ!!」
「何だか、ヒカリちゃん達にヤキモチやいて、馬鹿みたいだったな…」
空は、少し照れながら太一を見る。
「何で、ヒカリ達にやくだよ〜?(-_-)」
「だって太一、この頃ヒカリちゃん達ばっかりなんだから…」
今度は太一照れながら、空を見る。
「空、人気あるから…見限られたかと心配したんだぜ!!それに、ヒカリにだって、“それ”飲まして無いだからな!!」
その様子をクスクスと空は笑い、呟く。
「でもさ、たまにはこうゆうのも良いかもねv」
「え〜!!何でだよ」
情け無い声を出す太一。
「だって、私だってたまーに、太一に甘えたいかな〜て思って」
(ミミちゃんと丈先輩の所みたいに…)
太一は少しうなりながら、「何時でもは、困るけど…甘えて良いからな」ニッと普段の太一の笑顔で笑う。
「有難う太一」
空もとびきりの笑顔で微笑む。
「お茶、もう一杯飲むか?」
「お願いするわvv」
一緒にいすぎて気付かない大切な気持ち。
離れて初めて気付ける気持ちとは、良く言ったものだ。
まさに、この2人にぴったりだった。
だから、よけいに新鮮な気持ちに、なる。
だから、たまにはこんな日があっても良いかもしれない…。
後日談
「何だか、釈然としないけど、お兄ちゃんが元気になって良かった…」
ヒカリが、複雑な気持ちで呟く。
「でも、まーしかたがないですけどね…」
光子朗も又、曖昧な表情をして、ヒカリに答えた。
「…」
テールモンは、顔をしかめるだけ。
3人は、顔を見合わせ溜息一つ。
「じゃー、そろそろ行きましょうか」
そう言うと、3人は大好きな太一の所へ向かった。
そして、3人は、(((お兄ちゃん、太一さん、太一が幸せなら)))と思いながら。
END
2001.3.31 From:Koumi Sunohara
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