幸せは意外な処より舞い降りる  

現世で終わりを向かえ、死神に尸魂界に連れてこられ、偶々霊力が有って…死神になれたことは凄く運の良い方なのかもしれない。

普通は、数年間尸魂界で生活して、寿命がきてまた現世に生まれかわることが常の中…死神と言う存在になれることが稀で、餓える事の無い特権階級の様な存在になれることに、尸魂界の人たちは憧れを抱くのだから。

しかしながら、僕は死神には成ることはできたけれど、強い訳でもなく。
それでも地味な仕事が嫌いじゃなかった事と、医療技術の才能が人より少し有ったお陰で、僕は四番隊の七席というポジションに居る。

十一番隊の人達や殆どの隊にお荷物だと言われても僕にとっては一番の隊だと思う。

出来る事なら争いなんて無い方が良い。
争いが無ければ…怪我をする人が少なくなる。
それでも人の本能なのか…争いなどは一向に消えないし…好戦的な人種と言うものは居る。

分かり易く言うなら十一番隊が良い例だと思う。
戦闘で死ぬのが本望…強い奴と闘うのが楽しいのだと言う。

命を預かる側である四番隊としては迷惑以外の何ものでも無い。

戦闘で死ぬのが本望だと言っておきながら、直りが悪いと悪態を付き暴れる。
医療機関である四番隊はお荷物だとわめき散らす。

更木隊長や斑目三席、綾瀬五席、草鹿副隊長ぐらいになると、有る程度四番隊の意味を知ってる所為か、特に馬鹿にしたりなんてことは無い。
けれど恐らくほとんどの死神は戦いを主にしない部隊を、蔑んでいるのだろうと思う。

それでも自分の隊の隊長である卯花烈隊長は、蔑む人間にも毅然とし、人が嫌がる仕事も率先して仕事をし、それを誇りに思っている凄い人だ。

卯花隊長は優しい人だけれど時には厳しい人だ。
命の重さを知っているから…軽んじる行動には厳しい。

確かに思う、誰かがしなくてはいけない仕事が、誰もしなかったら…きっと悪い方にしか働かない。

確かに僕らには、虚を倒す直接的な力不足かもしれない。
けれど…人の死を…すり抜ける命を見続けて、揺らがぬ心が無い限り四番隊はつとまらない。それが僕にとって誇れる一つではあるけれど、ときどき揺らぐ時がある。

普段は気にしない様にしてやり過ごす。
けれど旅渦として尸魂界に来て、共に行動することになった一護さんと居るうちに、助けることしかできない自分に歯がゆさを感じた。

血だらけになって、瀕死になっても尚、友を助ける姿勢の一護さんに自分は治療をして戦場に送りだすことしかできない。
自分にもし戦う力があったらもっと、一護さんが傷が少なかったかもしれないと思ったら、自分が少し誇っていた気持ちが何だか揺らぐような気がした。

卯花隊長に謹慎の意味で投獄された時にも不意にそう思った。

(少しは体力つけて…少しは戦えるほうが良いんだろうか?)

明らかに向いていないのは分かっていたけれど、そんなことも思う。
そうやって考えている時に、六番隊の理吉君が、阿散井さんを助けてほしいとやって来た。

何かを変えたいと思っていた。出来ることをすることをしようと。

だから理吉くんが、阿散井さんを助けてほしいと来た時に(ああ。この人も自分のすべきことを考えて、出来ることをやろとしたんだ)と感じた。恐らく、僕と同様に隊長より謹慎中であろう阿散井さんを助けることは隊を裏切ることになるのに、理吉君は自分の心のまま動いていた。

だから僕も自分の出来る事をしようと思った。阿散井さんを助け、一護さんの元へ送る事を。

ひとしきり阿散井さんの治療をした後、僕はまた四番隊の牢に戻った。その後、一護さん達は無実である旨や隊長3人が裏切った事、怪我人続出で謹慎中の僕も忙しかったりした。

一護さんやルキアさんは、僕の処分について卯花隊長にお願いすると言ってくれたけれど、僕はそれを丁寧に断った。

「有難うございます。でも、僕のしたことは阿散井副隊長の行動とは異なる、問題です。僕のしたことを許してしまえば、示しもつきません。後悔してませんし、僕が隊長と同じ立場でもきっと同じ処分を言うと思います。だから、大丈夫です」

そう自分の言葉で紡いだら、一護さんは短く「そうか」と返した。

「花太郎は一護と出会った強くなったな」

一護さんとのやりとりを見ていたルキアさんが、意外な言葉を口にした。

「そんな…僕は強くなんか無いです…足手まといだし…回復や補給しかできませんから」

自嘲気味にそう言葉を紡いだら、ルキアさんは少し悲しそうな顔をした。
僕は取り繕うと言葉を紡ごうと思ったけれど、上手く紡ぐ事ができずに言い淀んでいると、一護さんが僕の頭に手を置きながら言葉を紡いだ。

「花太郎は…四番隊は誇って良いんだぜ」

現世から来た死神代行の一護さんは、そう言った。

「え?」

「ただ力があることが良い事は言えないだろうが。俺を助けてくれた花太郎は十分役に立ってるし足手まといじゃねぇよ」

現世の実家が病院である一護さんは、医療を担う僕らを認めてくれる人だった。
と言うより基本的に現世の人達は認めてくれる人達だった。

「助からない命だってあるだろが。それでも助け続けるのは…穴の空いたバケツに水をくむみたいに…大変だぜ。そんな頑張ってる人間が誇らないで何を誇る?俺は鬼道はできねぃ…治すこともできない…けど虚を倒せる。良いじゃねぇか、人それぞれ無いところを補えばよ。だから俺は花太郎お前を誇りに思うぞ」

「一護さん。そんな事隊長以外や四番隊以外で言ってくれる人なんていませんでしたよ…ありがとうございます」

僕は嬉しくて泣きそうになながらそう言葉を紡いだ。
そんな僕に死神嫌いの滅却師である石田さんは、少しぶっきら棒に言葉を紡いだ。

「戦闘しか考えない野蛮人の事は気にしなくて良いんだ。人の命を救うことは簡単じゃ無い…分かっている人間が居ると思えば良いんだ。まぁ…一度四番隊全員がストを起こして、四番隊が無い日を作って有り難みを味合わせるのも良いかもしれないね」

それに、静かに頷く茶渡さん。
織姫さんは、「なるほど〜」と言ってから僕に優しく微笑んだ。

「あのね。私戦いって苦手だし…どちらかと言うと花太郎君と同じ回復とか後方支援タイプなんだ。でもね、怪我した人を助けれるて何もできないより良いことじゃないかな。そんなにお荷物だとかいう人が居て花太郎君を苛めるんだったら。現世に来ちゃえば良いんだよ」

名案だと自信満々に言う。
一護さんも皆もうなづく。

「全て持ってる奴なんて一握りだぞ。だったら足りないものを補えば良いじゃねぇか?仲間同士で足りないもんを補う…井上が回復してくれて、石田が状況を判断して、チャドが後ろを守ってくれる。第一、花は俺を何度も命救ってくれたじゃねぇか。戦う俺を支えてくれた、それで事は丸く収まると俺は思う」

太陽の様なキラキラした笑顔で一護さん達はそう言った。

「えへへ…僕…僕、こんなに幸せで良いんでしょうか?もしかして夢?」

僕は嬉しくなって、思わず頬っぺたを抓った。
そんな僕をルキアさんが、苦笑を浮かべる。

「夢までこんな大変な出来事に巻き込まれたくは無いぞ花太郎」

「普通じゃない事があるけど。ちゃんと現実だよ花太郎君」

優しい笑顔でそう言ってくれる織姫さん。

「そうですよね夢じゃないですよね」

「ああ、夢じゃない。滅却師が此処に居る事もね。そうだなさしずめ僕らは、君を幸せにしににきた使者って思えば少しは現実味も沸くんじゃないかな」

「石田お前…相変わらず臭い科白だな〜。良く出てくるよな本当」

「煩いな…君があまりに情緒が無いんだ」

フンと鼻を鳴らして石田さんがバッサリ言い切る。

「いえいえい。本当にそうかもしれません。僕は凄く幸せだし…結果的にルキアさんも助かった…本当に一護さん達は幸せの使者なのかもしれません。だから、僕は此処でもう一度頑張ろうと思います」

そう返した僕に、一護さんは少し吃驚した表情を見せた後、優しい笑顔を向けてくれた。

色々悩んだりもこれからもするだろうけど…きっと…悲しさや辛さも同じぐらいにあるけれど…ささやかな幸せは何処からともなくやってくるのかもしれない。
空から舞い落ちる鳥の羽のように…。

おわし

2010.8.23. From:Koumi Sunohara

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