ハッピーエンド
−願わくば肩を並べたあの日々に−




何時も願っていた

あの日々に帰れることを…

あの方が居て…私が居るあの日々を…


命の預けれる存在だった夜一様の失踪から、長い年月が流れた。
気の遠くなる日々…隠密機動部隊から死神に転属して…虚を倒し続ける時間。
まるで…同じ様な時間が永遠に続く様に…その日々は気が遠くなるよう時間だった。

慕っていた分…風の前の塵の様に消えてしまった大事な主君へ憎悪。
それを忘れる様に、ひたすら虚と戦い…気が付けば隊長にまで上り詰めていた。

隊長になればなったで、忙しい時間が続き…夜一様のことを考える時間など減ってくる。
だが…ふとした瞬間に、あの方を思い出してしまう。
置いて行かれた…あの日のことを。

(色々考えての事かもしれない)

浮かぶ思いも…居ない主君へのぶつけよう無い苛立ちが大きくしめて、憎むことで己を保ち…強くなることであの方の影を自分に求めた。
滑稽すぎるが…それは自分が砕蜂でいる為の重要な事だった。

だけど転機が訪れた。

旅禍討伐と朽木ルキアの処刑。
双極での刑執行…。
十三番隊の従者を消そうとした瞬間…恋いこがれたあの方が私の目の前に居たのだ。

色あせた…モノトーンの世界が鮮やかに色づいた。
それは…まるで止まった時間が通常に動き出すように…鮮明な瞬間だった。

敵として現れ、隊長として対峙した時でさえ…私は嬉しくてたまらなかった。
初めは勿論、憎しみが強かったけれど…変わらない主君の姿に…心の奥底では嬉しくて仕方がなかった。

しかも…あの戦いの最中でさえ自分を気遣ってくれるあの方に、私はぶつける様に悲しかった思いなどをぶつけた。

その甲斐があってなのか、私は再び…あの方…四楓院夜一様の隣に居る。
そう…今も。



「さい…砕蜂…砕蜂」

不意に呼ばれた名に、自分が物思いにふけっている事に気が付いた私は、慌てて返事を返した。

「あ…はい。何でしょうか夜一様」

「何を笑っておるのだ砕蜂と私は聞いておったのじゃが…それすらも聞いておらんかったのか?珍しいの」

困惑気味に首を傾げる夜一様に、私は「別に」と小さく答える。
それを訝しそうに見ながら、夜一様はボソリと呟いた。

「うむ。しばらく離れた間に、お主の性格が分からんなったのかの」

ささいな変化も気が付いてくれる夜一様の態度にうれしさを感じ、私は弁明すべく口を動かした。

「別に性格は昔のままだと思います。ただ…」

「ただ?」

「不謹慎ですが…こうして夜一様と肩を並べる事が出来た事が嬉しいと感じるんです。だから…嬉しさの余りに頬がゆるんだのでしょう」

少し恥ずかしかったけれど、正直な思いを口にした。
すると夜一様は何だか、ポカリと口を開いて…それから綺麗な笑顔を私に向けてくれた。

「成る程。まぁ…不謹慎ではあるが儂も同感じゃな」

紡ぎ出された同意見の内容に私は、思わず驚き夜一様を凝視してしまった。
だって…あまりにも夢のような科白で…これが現実なのか一瞬分からなくなってしまったのだから…。

そんな私の胸中を知ってか夜一様は、少し遠くを眺めながらゆったりと言葉を紡ぎ始めた。

「不思議そうな顔をするでない。儂とて…心苦しい想いがあったしな。あの時は…砕蜂にとってソレが良いと…思ってしたが。大事な妹分を手放した寂しさは消せぬものじゃ」

嬉しすぎる言葉に私は本当に夢を見ている気分が抜けきらなかった。
だから思わず心の中に止めるはずの言葉が流れ出てしまったのだ…。

「本当に夢を見ている思いです」

こみ上げてくる想いが溢れるように、そんな言葉を呟けば…。
夜一様は私の頭を軽く撫でながら、言葉を紡がれた。

「夢などでは無いぞ砕蜂。一護と共に儂らがルキアを助けに来たのは見まごうことのない現実じゃ…それに…夢ではこんなにリアルな感覚はなかろうて」

ニッと明るく優しい笑顔を見せるあの方に、私はただ「はい…。だからこそ嬉しいのです」と呟くことしか出来なかった。

「それは何よりじゃ。儂も嬉しい…じゃが今は感傷に浸る暇は無いぞ砕蜂。無論、お主の手を貸して貰うのじゃからな」

「勿論そのつもりです。寧ろ夜一様が駄目だと言っても…もう私は貴女の側から離れるつもりは無いのですから」

迷い無く言い切る私に、あの方も淀むことのないまっすぐな瞳で私を見返す。

「当然じゃろ。儂ももう同じ鉄は踏む気は無い…では行こうか砕蜂よ」

「はい。この命尽きるまで…お供致します夜一様」

そう言って私たちは戦いの起こる双極の丘へと歩を進めた。


私にとっての幸せな終わり方は…やはりこの方の側で無くては幸せとは言えないのだと…。
心の底からそう実感した気がする。
例え…他の誰かに逆賊と言われようとも…。


おわし


2005.6.16. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
web拍手にて2005.5.20.より掲載していたモノです。
砕蜂が夜一さんと共にまた肩を並べれた事に触発して書いた代物です。
別にカップリングとかでは無く…この人間関係が好きなんですよね。
これに喜助さんが混じったら…それはソレで楽しそうです。
ともあれ、こんなお話におつき合い頂有り難う御座いました。


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